となりの新喜楽亭さんが店じまいする。
奥さんがわざわざ生麺をもってきて
「もう、ゆっくりするわ」など
うれしいような哀しいような顔で言う。
店の前では、バイトのミクにマットを
デッキブラシで掃除させていたのだが、
わたしが店から出ると、新喜楽亭のご主人が
白いトヨタの車を横づけにわたしにあいさつした。
「いや、世話になったね」
「いいえ、こちらこそ、お疲れ様でした」
「向こうからこっちにうつってちょうど50年やった。
あとは、しまちゃんにまかすよ」
ご主人はわたしのことを「しまちゃん」と呼ぶのだ。
わたしは、かれにあいさつすると、ご夫婦は車で去って行った。
そのとき、バイトのミクの掃除しているマットを
しっかり車は轢いて行ったのだ。