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運び屋

 クリントイーストウッドの映画、

主演も監督も本人である「運び屋」を観た。

 

 仕事にかまけて家庭を顧みず、

ひたすら花の栽培に命をかける老人、

それがアール・ストーン。クリントイーストウッドが

87歳だから、アールもその年齢なのだろう。

 

 かれは、ひとり娘の卒業式も結婚式も

仕事に精を出し出席しない。

表向きの顔は、すぐれて仕事熱心なかれなのだが、

しかし、妻からも娘からも

すでに夫、父はいないものとおもわれていた。

 

 が、農園が潰れて途方にくれるアールに

ある青年が持ち出した仕事が「運び屋」である。

 

それがコカインの運び屋であることが

アールに知れるのにはすこし時間がかかったが、

なにしろ莫大な金がアールの手に入るので、

農園を買い戻したり、孫の教育費や

その他の施設に寄付などすることもできた。

 

そんなある日、アールの妻が重病であることが

わかり、かれは、運び屋の仕事を放棄し、

妻を看取るまで家で過ごしたのだ。

 

それを見てか、娘も心をほぐし、

父の存在を認めるようになる。

 

妻の葬式を終え、

ふたたび仕事にもどったアールを迎えたのは、

無数の警察官たちであった。

あえなくかれは捕まり、裁判にかけられる。

 

罪を認めたかれに、法定で娘と孫が抱きつく。

「お父さん、愛しているから」

「なんでも買えるとおもっだが、時間だけは

買えなかったよ」と年老いた父は語る。

 

そこで娘が言う。

「でも、こんどは居場所だけはわかるから安心だわ」

 

 

アメリカンジョークと言うのか、

じつに気の利いた娘の最後の台詞であった。

 

 

どんなことがあっても家庭がいちばんである、

ということをこの映画は語っているのだが、

なんだが、どこかで似たような風景を見た気がした。

 

まさしく、わたしの生活と重なるような気がしたのである。

 

わたしも、若いころは、学校の教師をし、

その後に予備校にむかい、朝は6時から家を出て、

帰りは12時、てっぺんになるという生活を

40年近くしてきた。

 

家族をまったく顧みなかったわけではないが、

どちらかといえば、アールと似たような

生活だったのではないか、とおもうのだ。

 

ま、犯罪だけはしていないので

そこは違っているけれども。

 

そういえば、嫁いだ娘のひとりが

転職したらしい。

 

その転職先が、200倍の倍率を

勝ち抜いての採用だったという。

 

 

妻のラインには、その具体的な数字と

じぶんの信じられない「すごさ」が

手に取るように伝わっていた。

 

長男もわたしの職場にわざわざきて

娘の成功談をじぶんのことのように喜ぶのだ。

誇らかに「すごいね」と語っていた。

 

次女は、ほがらかで互恵的な性情で「なにかを持っていた」

のだから採用されたのだろう。

 

じつにめでたい。

 

が、その話をわたしは妻からと

息子から聞いただけで、

当の本人からは、微塵も報告を受けていないし、

なんの連絡もない。

 

わたしに連絡があれば、

きっとわたしは、最上級に娘を褒め、

このうえない賛辞を贈ったことだろう。

 

ん。待てよ。

 

これって「運び屋」のアールとおんなじじゃないか

 

すくなくとも昼の間は、

店にいるわけだから「居場所だけはわかっている」し。