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会長からの電話

 S小学校の同窓会会長から電話があった。

「こんどの周年行事ですけれど、

同窓生を呼ぶんですか」

 

 わたしは、かれが会長をつとめる前の10年間

S小学校の同窓会の会長をつとめていた。

 

 わたしの前が、大地主のKさん。

「こんどね、わたし降りますので、

ぜひ、あなたに引き継いでもらいたいんです」

 

「え、わたしが、ですか?」

 

「はい、新聞屋さんのWさんは、品がなくて、

あのひとにはどうしても頼めないんです」

 

わたしは、13年前、Kさんからそんな電話をもらっていた。

その前年まで、わたしはPTAの会長だったからである。

 

 仕事には三通りある。

 

わたしの仕事

あなたの仕事

だれの仕事でもない仕事

 

 会長職とは「だれの仕事でもな仕事」だから

引き受けるひとはほとんどいない。

 が、頼まれれば仕方ない、

頼まれるうちが「ハナ」である。

 

 そして10年、周年行事を二回こなして退任し、

いまは、顧問としての籍があるだけだ。

 

「このあいだの周年でしょ。同窓生がいっぱい

出席しましたよね」

 

「はい、名簿みて、おどろきました」

 

「それはそのときのPTAの副会長、

あの公金横領でゆうめいな彼女のしわざなんですよ」

 

「え。どういうことですか?」

 

「その副会長は、勝手に同窓会名簿を利用して、

同窓生全員に、招待状を送ったんです。

そのとき、彼女は、同窓会の役員でもありましたから、

同窓会名簿を手に入れることも容易だったんです。

周年行事は、学校側と同窓生側と、ふたつ開催するんです。

学校側の式典には、同窓生は呼ばない、同窓生側の

周年行事でもりあがる、というのが伝統でした。

が、彼女は、学校側の行事に、すべてを無視して、

同窓生を呼んだんです」

 

「あ、そうだったんですか」

 

「はい、で、わたしがそれに気づいた時は

後の祭り、会議室で周年担当者と相談したとき、

開口一番、わたしのなにがいけないんですか、

と、怒声をあげてわたしに言ったのが、

やつなんです。その横で、声だけはきれいといわれる

表具屋の娘まで、お祝いだから、だれを呼んでも

いいじゃないですか、と、まったくでたらめなことを

言う始末。わたしは、すっかりあきれて

その場をあとにしたんです。まったく

伝統もしきたりもあったもんじゃない」

 

「そうだったんですか」

 

「ですから、学校の式典には同窓会の会長だけでいいんです。

それが筋です。同窓会の会則に、名簿は会長の許可を得る、って

あったでしょ」

 

「はい、あれはやつのしわざが原因です」

 

 

「あ、そうだったんだ。わかりました。ところで、公金横領ってなんです」

 

「それね。彼女はその後、町の町会に手を出したんです。

彼女の旦那が会長に、彼女は会計に、彼女の母親が回覧板の

担当になっていました」

 

「それって、駄菓子屋さんのかた?」

 

「そうだったけな、よく知りません。でも旧姓はBです」

 

「あ、それならそうです。それ聴いたことあります」

 

「はい、町会費をおもうままに使っていたようです。

おなじ町会のラーメン店店主のMさんも

ずいぶん頭を抱えていましたよ」

 

「はい、そうですか」

 

「そうです。しょっちゅう店屋物をたのむし、

駅前の高級な刺身の店では、役員あつめて

これもしょっちゅう宴会、会費は1000円だそうです。

回覧板の配布に、手数料として月7万円もらっていたそうです。

学校の式典にいけば、5000円でるし」

 

「へー、それすごいな」

 

「はい、一事が万事、すべて町会費は

自家薬籠中の物みたいに、きままに

使っていたみたいです。でも、

業を煮やした町のひとが、あの一家を

町会から引きずり下ろしたってわけです」

 

「ふーん」

 

「でも、信用は失いましたけれど、

まだ、逮捕はされていません」