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神戸屋に行く

ひさしぶりにM子と会った。
うちに連れこんで煮たり焼いたりしようと
おもっていたら、夜、北千住で女子会をするという。

 ざんねん。

ま、うちは、
竪穴式住居のように薄暗く、
鍾乳洞のように気味悪く、
空爆された街のようにものが散乱しているから
だれも来ようとはしないのだけれども。


食事をするのが目的である。
わたしは、M子を学校まで迎えにいった。


なに食べる?


そんなラインが来ていたので、わたしは、
「らら・ぽーと」か「神戸屋」と返した。


「??」


M子は、らら・ぽーとも神戸屋も知らないらしい。
どちらも、炭水化物を取らなくても平気な料理が
揃っている。こちらがあんまり粗食だと、
相手も気にするだろう。

らら・ぽーとのフードコートには「えぼし」があって、
ご飯さえ手をつけなければ、魚だけの低カロリーのものが
どっさりある。

神戸屋は、サラダバーがあるはずだ。


M子を車に乗せて、世田谷までもどる。
わたしは、はじめて今夜、彼女がお泊りすることを
聞いたので、横浜までは無理だとおもい、
神戸屋に行くことにした。


そんなにまずくはない料理屋である。


上野毛の坂の下に神戸屋はあり、
平日の夕方だったせいか、店内は比較的がらりとしていた。

M子は、ハンバーグとビーフシチュー、わたしは、
もちろんサラダバーである。


このあいだ、M子と行ったレストランでは、
巨大なアメリカンバーガーを彼女が頼んで、
彼女は、まず食べ方に閉口していた。


これどうやって食べるの?



ん。だから、口あけて食い物いれて、
歯を上下にぱくぱくすればいいんじゃん。


んなことわかってるよ。


なんて会話をおもいだした。


ハンバーガー&ビーフシチューが来るまで、
彼女は、パンを三つほど食べていた。

なにしろ、パンの食べ放題。それも焼きたて。
わたしは、これが食べられないのが
ざんねんでならなかった。


パン食べないの?


うん。減量中だからさ。


なんで痩せようとおもうの?


そりゃ、みっともないじゃん、太っているのってさ。


え。もういいじゃん。


なに、そのもういいじゃん、って。それって、
おまえは、すでに醜くいけれども、すでに
人生は終わっていて、もうどうでもいいことでしょって
そう言ってるわけ?


と、M子はカラカラと笑い出して、


そーは言ってないけどさぁ。


だれだって、いつまでも、素敵なんて言われなくてもいいけれども、
醜いっておもわれたくないのが人情というものだ。



M子の料理が来たので、わたしもサラダバーを取りに行く。
先に、野菜だけパクパクしていたらみっともないし、
なんか紳士的ではないと、本能的におもったのだ。


サラダバーと言ったって、シズラーほど種類は豊富ではない。
ん? みると、サフランライスのサラダ・
ポテトサラダ・ごぼうサラダ・人参サラダ・
スパゲティサラダ・マカロニサラダ・さつまいものサラダ、
ずらり並んでいるが、
このすべてをわたしは食べられないのだ。

炭水化物と根菜がNGだからである。

だから、わたしは、消去法的に、
赤ピーマンとレタスととうもろこしを皿に盛った。


なんかさあ、サラダバーって言っても
食べられないものだらけだよ。

と、わたしが言うと、言下に、


口を開けて、パクパクすれば食べられるよ。

と、M子が言った。


う。仕返しされている。

大量の焼きたてパン&ビーフシチューの女と、
うさぎの餌みたいな男は、
このあと、
この店を出て、時間にまだ余裕があったので、
彼女が見たいと言った
ベイブリッジまでドライブした。


こんどどこ旅行行く?


なこと言うと、前も行ったようにおもうじゃん。


あ、そう。

あ、横浜やっぱり綺麗だね。

みなとみらいの夜景である。



ほら、あそがベイブリッジ。


あ、綺麗、綺麗。


彼女は喜んで写メを撮っている。

わたしがもう20年若かったら、
ここで、きっと口説いていたことだろう。


ざんねん。


このとき、わたしは、わたしの昔の短歌が頭をよぎった。


・髪の毛をさわっていいよ照らされて港のうえに架かる大橋