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出世するなら

中学生のころ、わたしは汗かきで、よく手のひらにも

脇下にしも汗をかいた。

だから、フォークダンスがいやでしかたなかった。

 

むかしは、フォークダンスというシロモノがあって、

女性と手をつないで「よろしくね」みたいなあいさつで

オクラホマミキサーとか踊った。

 

ほとんどの女子は、わたしと組みになったあと、

気持ち悪いとばかり、体操服でごしごし手を拭くしぐさをして

あれがわたしのひとつの劣等感であった。

 

友達に水田(仮名)がいて、幼稚園からいっしょで

どちらかといえば仲が良かったのだが、

仲がいいからか、かれはしょっちゅう

登校して学校につくや、わたしの脇に手を突っ込んで

「わ、濡れている」とか

軽蔑した笑いをわたしにむけた。

 

この行為はほとんど毎日つづいた。

 

いまなら、ハラスメントなんて便利なコトバがあるが、

当時は「いじめ」も「ハラスメント」もない時代、

不快感だけがわたしにのこった。

 

大学にはいって、わたしはゼミ長になった。

貴志ゼミという厳しいゼミだった。

 

毎週、ゼミ会議があり、わたしが進行役だった。

 

そんなに時間をかけて討論するのは好きではないので、

さっさと終わらせていたとおもうが、

会議がおわるときまってハナキという男、元野球部が

ゼミ室の外によびだし「おい、あのときは〇〇って言ったほうが

よかったんじゃないか」とか言うのだ。

 

「ならさ、あのとき言えばいいじゃんか」と

私が言うとお茶を濁すのだ。

 

ゼミ会議の後は、いつもハナキがそうやって、

後の祭りのことを、ああでもない、こうでもないというのであった。

 

はっきりとじぶんの意見を言わず、

陰でこそこそ言うのをわたしは卑怯者多だとおもったし、

いまもハナキは卑怯で臆病なやつだとおもっている。

 

 

しかし、水田はけっきょく

マザーに上場する会社の社長だし、

ハナキは北海道で高校の校長にまでなった。

 

出世するやつは、きっとそんなやつらなのだと

わたしは、いまでもそうおもっている。