もしもし、あ、ひさしぶり。
どうです、そちらはおかわりなく?
はい、毎日、仕事ですって。
おんなじ仕事。ルーティーンってやつ。
こつこつ、つまんないことのくりかえしよ。
あら、いいじゃないですか。
わたしなんか、いつもひとから大ざっぱって言われてね。
右のくつしたと左のくつしたと模様が
ちがっても気にならないの。
え。それはどうだろう、おれはいやだよ、それ。
家にもどって着替えるほうが、めんどうじゃない。
イタリアの芸術家で、わざわざ、
くつしたの色を変えているひともいるんですよ。
既成概念にこだわらないってのかしら。
それは、どうでもいいけれど、
わたし、大ざっぱなんですよ。
つきあったひとから、よく、
お前はおおざっぱだなって言われたし。
ピアノの先生からも、
あなたは、解釈が大ざっぱねって言われたり、
友だちとの付き合いも大ざっぱだから、
別れたひととも平気で話せるし、会えるしね。
あなたにあんなこと言ったひとよ、
とか、友だちから言われても、
大ざっぱだからなんともおもわない。
部屋の片付けもじょうずにするけれど、
ざっとしちゃうかな。
ふーん、おれは、あなたを
そうおもったことないですよ。
あら、そうですか。
このあいだも、医師の紹介状をこっそり
見てしまったんだけれども、
「性格は大ざっぱで、短気」なんて書いてあるのよ、
ちょっとムカッてしたんだけれども、
紹介状だから、なにか書かなきゃいけないでしょ。
しかたないわね。
あ、わたし、下に行ってちょっと用意しなくちゃ。
じゃ、切ります。
ごめんなさいね。
じぶんのことだけずっとしゃべっちゃって。
しょうがないわよね。
なにしろ、大ざっぱだから。