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ギターでしょ

 朝の五時までカラオケをした。

そもそも、カラオケに行ったのが午前2時だったから、
なかみは三時間。

 予備校の先生ばかり、五人である。

 始発までカラオケをするというバカな話だ。


 わたしは、すこし音痴である。
べつに歌がうまいというのではない。
リズムは切れるけれども、やはり、
歌い方をしらないせいで、
でかい声を張り上げるだけである。


それは自覚しているし、プロの歌手と
いっしょにボックスに行ったときは、
彼女の歌声に、震えたものだ。


 やはり、プロというのは、ひとを
しびれさせるものらしい。

 じぶんで言うのもなんだが、
声質はわるくない。電話の声なんか、
いい声だと、なんかいも言われている。

 しかし、歌うというときは、
すこし、かすれたほうがいいそうである。


 吉田美和とか、
高橋真梨子とか、歌のうまいひとは、
すこし声がかれている。

 もんたよしのり、とか桑田佳祐、上田正樹、
AI、鈴木聖美は言わずもがな。


 かすれた声のほうが聞きやすいと
教えてくれたのは、泉下の星野先生。


 だから、わたしはカラオケはNGなのだ。
きらいじゃないけれども、ひとさまに披露する
ほどではない。


 だが、さいきん教わったことは、
ベースの音にあわせてリズムを刻むこと。


 うん、そうすると、歌にメリハリが付くのだ。

 たしかに、そうおもう。

 これは、目からうろこのようなもので、
これからは、そこを気をつけて
歌ってゆこうとおもった。

 アルフィの桜井賢もベースの音で
音程を合わせているそうだ。


 予備校の講師たちのカラオケはたいへんだ。
英語専門のひとは、英語の歌を。

 ゴダイゴの歌なんか、すらすら歌う。

 ついてゆけない。

 そしてみんなそれにのってはしゃぐ。

 わたしが最年長のせいか、みんなの歌う歌の
ほとんどが知らない歌ばかり。

 銀河鉄道スリーナインのテーマソングだけだったかな、
知っている歌は。

 狭い部屋にタバコの煙が充満し、
何杯のんだかわからない生ビールのジョッキ。

 そこには、浜口庫之助の孫、
という方もいて、やはり、歌がうまいのだ。


 しかたなく、わたしも順番でいれる。

と、ある先生から言われた。

 「歌い方が、いやらしい」と。


 うまい、ではない。ヘタでもない。
いやらしい、のである。


 これは褒められているのだろうか。
そもそも、歌い方がいやらしいとはどういう意味なのだろう。


 わたしには、それがわからない。


 そういえば、わたしがギターを弾くと、
アルペジオしかしないので、
ポロン・ポロンやるんだが、その弾き方も
ある青年から「いやらしい」と評された。


 ギターの弾き方にいやらしいとか
あるのだろうか。


 わたしは、スリーフィンガーを駆使して、
じぶんなりのアレンジでコードを押さえるだけ、
リードギターはできないのである。


 いまは、なるべく、いそがしい弾き方を
やめて、音のない時間をつくって弾き語りをする。


 音がないほうがいいばあいもあるからだ。

 しかし、それがいやらしいという。

 どういう意味だ。


 ま、中学3年生からはじめたギターである。

もう、ギターを弾いて55年になる。

 そりゃベテランでしょ。


 と、そんな話を、きょうバイトにきている裕子に
話していたのである。


 「おれ、はじめたのが、中学3年生だからな」
と、語ったとき、彼女はこう訊いてきた。

 「せんせい、そんなむかしからやっていたの」

 「うん、なにを?」

 「いやらしいこと」

 

 ちがうでしょ、ギターでしょ。