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203号室

あるひとの話である。

 新築のアパートの203号室に越してきた。

 201号室は、初老の男性の一人住まい。

 とても愛想のいい方だそうだ。

 そして、202号室は、毎朝、顔をあわすのだが、
とても若くて、かわいらしい女性。

 ああ、ここに越してきてよかったと、そうおもったそうだ。

 ところが、困ったことは、204号室である。

 夜中になると、壁をドンドンと叩いてくる。

 毎夜、毎夜、そうやって壁を叩いてくるので、
むかついて、こちらからもやり返してやったそうだ。

 そうしたら、それ以上に激しい音で叩いてくる。


 業を煮やして、不動産屋にクレームを言ったそうだ。

 「あの204号室のひとが、とてもうるさくて困ります」と。


 と、不動産屋はひどく困ったような口調でこう言った。

 「あの、あそこのアパートに住んでいる方は、あなただけなんですが」


 「・・・・・」

 
 じゃ、201号室のおじさんは。202号室の女性は。


 そこで、それ以上なにも語らない不動産屋さんなので、
じぶんで、このアパートの過去を調べたのだ。

 そうしたら、このアパート、その前は、公園だったそうだ。

 そして、公園の前は、おんなじようなアパートだった。
が、そのアパートは火事で全焼し、
住人のことごとくが亡くなっていたそうだ。

 この話、信じるかどうか、実話らしいのだが。