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ラレド 昔のはなし

 昨日からひとつのメロディの断片が頭をよぎってはなれない。

 ギターであわせてみると、ラ・レ・ド#・レ。

 「レ」の音は「ラ」より高い音。

 だれが歌っていたか、そして歌詞もわからない。

 ただ、ラ・レ・ド#・レ。


 しかし、ノスタルジアのある響き。そして、深淵なおもむき。

 そして、それいじょうに昏く暗い。冬の歌か。


 だれの歌なのか、なんで浮かんでくるのか、
まるで、母胎のなかにねむる胎児にとどくようなメロディ。

 あるいは、暗黒の森林の一本道の
はるか消失点にともるひとすじの光明にむかって歩いているような感じ。

 どこかに死のイメージ。

 とにかく、さびしい。

 ただ、響く声は清澄な天使にも似たような記憶である。
そして、ひどくメゾフォルテになる箇所があったはずだ。


 きっと、よく知っている楽曲なのだろうが、
それを邪魔する、無意識のじぶんがいるのかもしれない。


 それを知るとなにかいけないことが想起されるので、
脳が防衛本能的に遮断しているのか。


 しかし、おもいだせない。メロディもわからない。歌手もわからない。
歌詞もわからない。手がかりはほとんどゼロである。

 
 ラ・レ・ド#・レ


 たぶん、女性のヴォーカリストだろう。


 ・ベクトルは死者のたましい階段をあなたにひかれのぼりゆく そう

 ずいぶんまえの拙歌。


 うん、そんなじぶんの哀れな場面に付着した歌だろうか。

 とにかくおもいだせない。ポケなのだろうね。

 ラ・レ・ド#・レ・・・

 ここしかわからない。そうやって一日がおわった。


 そして今日である。

 ダリの描いた不気味な景色から
 世界の黎明期がおとずれたように氷解したのだ。

 今朝、きゅうにその歌のすべてをおもいだしたのだ。

 
 それは、倉木麻衣の「白い雪」だった。

 ♪オレンジ色 灯した 部屋の窓


 わたしは、この「オレンジ色」というメロディーだけが、
脳裏を去来していたのだ。


  ♪白い雪 まだここに記憶の 棘


 そうそう、こんな歌であった。

そうだ、この歌が流行ったころ、
わたしは、24年間はたらいた職場に「退職願」をだしたのだった。