高校時代だったろうか、森田童子というひとを知った。
カーリーヘアにサングラス。まずは性別がわからなかった。
声はちょっとガーリーで、たぶん女だろう、そのくらいの認識。
わたしは、レコードを買って、ひとりで夜、よく聴いたものだ。
まだなんだかわからない夢を抱きつつ、学生運動も下火になっていった時代、
わたしは、なにかを求めていたはずだ。
だから、古井戸とか、高田真樹子を聴いた。龍と薫もいた。
そのひとりに森田童子も。「さよならぼくのともだち」という歌はよかった。
学生運動で死んだ子の歌らしい。
だれひとり、森田童子を知る者がいなかった。
それが、脚本家の野島伸司というひとが、
高校時代同級生に誘われてライブハウスで
歌う彼女を知り強い印象を受けたらしく、
それが、「高校教師」の主題歌となり、人口にカイシャすることになる。
しかし、あの歌詞がいまだによくわからない。
♪春のこもれ陽のなかできみのやさしさに
うもれていたぼくは弱虫だったんだよね
この「きみ」は女性である。童子は女性だが、一人称は「ぼく」なので、
そういう設定なのだろう。彼女の作品は「ぼく」が多用される。
つまり、甘えすぎた「ぼく」がいた、ま、そういうことだ。
♪きみと話つかれていつか黙りこんだ
ストーブ代わりの電熱器、赤く燃えていた
これは、どうも同棲しているような含み。それも貧乏。
そこまではよい。
♪ぼくがひとりになった部屋にきみの好きなチャーリーパーカー
みつけたよ。ぼくを忘れたカナ
このへんから事情がややこしくなる。
たぶん、この「きみ」とは別れたのだろう。「きみの好きなチャーリーパーカー」は
だれのものだ。きみのものか。なら、この貧乏くさい部屋を出て行く時に、
好きなチャーリーパーカーを置いていった、ということだろうか。
それほど、急激な別れがこの二人に訪れたのだろうか。
「ぼくを忘れたカナ」
やめてくれよ、そんな言い方って、、ね。
♪だめになったぼくをみてきみもびっくりしただろう
あの子はまだ元気かい 昔のはなしだね
ということは、だめになっていった事後的なことを「きみ」は
目撃したということになる。どこかで遭ったということなのか、わからない。
ところで「あの子」ってだれだ。男か、女か。
それも「あの子」というのは「昔の」ことだから、
同棲した時代にいた「あの子」のはずだ。彼女のともだちだろうか。
これもよくわからないのだ。
そもそも、森田童子という芸名は、本名もわからないまま、
1983年、芸能界から去っていった。いま、存命なら63歳のはずである。
すべてが「謎」なのである。
高校時代、森田童子はわたしのものであった(はずだ)。
それが、1993年のあの「高校教師」というドラマで脚光をあび、
一躍、有名な歌となった。
ほとんど無名な歌手だったが、
それこそ、ご本人「きみもびっくりしただろう」である。
たしかに、神田川と、どこかに共有するアンニュイで退廃的、
70年代のわかものの、
いわゆる「三ない主義」の潮流の作品であったことはまちがいない。
学生運動も、その無意味性に学生じしんが気づきはじめ、
「いったいおれたちは、なにをしているのだろう」と、そんな
空気が世の中にあったころだった。
そして、なによりこの歌のタイトルがなんとも言えないのだ。
「ぼくたちの失敗」
わからないことだらけである。
※森田童子さんは2018年に亡くなった、66歳だった。