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店舗案内

市場経済のスターバックス

 スターバックスも営業成績が落ち込んでいるらしいが、

どこの街にも見かけるコーヒーショップである。

ビルの一角に、ピノキオが座るような木の椅子がならび、

禁煙の店内は若者でいっぱいだ。

あるいは、ビルの一角でなければ、

ショッピングモールの壁際にはりつくように注文カウンターが設置され、

そのまわりに、どこまでが店の敷地なのかわからないまま

テーブルと椅子が置かれているという店構えである。

まるで、カマキリの卵のような作り方である。

 

あのスタイルが現代版コーヒー屋なのだろうが、

むかしは喫茶店という、まったく趣を異にするものが

街のいたるところに存在していた。

喫茶店というと、朝には、モーニングサービスが

かならずあって、コーヒーにトーストで三百円くらい。

それも渋谷の地下のなんとかという喫茶店、

もう名前は失念、はトースト食べ放題で、

わたしは友だちと予備校をサボっては

よく出かけたものだった。

まさか禁煙などはありえず、たばこをくゆらせた若者であふれ、

店内は突入浅間山荘、煙幕で前がみえないほどであった。

 

いまもルノワールは存在しているが、

すでに遺跡のような感はいなめない。

この時代のあとをついで珈琲館ができ、

そしてドトールと、歴史はゆっくりと若者を壮年に、

そして老人にさせながら動いてゆく。

スターバックスは、暖かい飲み物と冷たい飲み物と

二系統が用意されていて、

一年中どちらも楽しめる。わたしは、

名前をまた失念、氷をじゃりじゃりかき混ぜて

上にホイップクリームの乗っているのが好きなのだが、

注文カウンターで、目の前のメニューを見ていると、

ずらりコーヒーの写真が並び、

それもどうもサイズまでいろいろあるらしく、

どれがどれだかわからず、

ついついせかされた気になり、

おもっていたものとちがうものを頼んでしまう。

 

あのー、氷がじゃりじゃり入っているのがほしいんですけど。

わたしが、こう店員に言うと、店員はちょっと考えてから

ああ、このへんのがすべてそうです。

と、愛想よく答えてくれたのだが、

このへんと指さしてくれた商品の多いこと、

やっぱりどれがどれだかわからず、

いいや、これでと、お目当てとは見当ちがいなものを

頼んでしまうのだ。だから、スターバックスで

スターバックスをじぶんのものにするのには、

あるいは、スターバックスでくつろぐためには、

よほどの事前の調査がいる、

ということをわたしは了解した。

ああいうのを緊張というのだろうか、そのおかげで、

すこし冷静さを欠いて、いくら出したか、

ということにあとから気づくのだ。レシートを見ながらおもう。

え、ずいぶん高いな。

 

だいたいスターバックスだと、

五百円前後のものが多いのではないか。

いまの世の中、五百円というと、

吉野家の牛丼を食べて二百二十円のおつりがくる。

マクドナルドのハンバーガーだと八個も買えて四円のおつりがくる。

じゃ、スターバックスのテーブルに、

なんとかという氷のじゃりじゃりひとつと、

マックのハンバーガー八個が置いてあって

どっちを取りますか、究極でもないけど選択させられたら、

迷うひとも出てこよう。

もし、こんな考えが日常で横行したら

スターバックスはあっというまに倒産してしまうだろう。

が、依然、景気が悪いといってもスターバックスは存在している。

 

つまり、お金の価値というものは相対的なものだった、

ということなのである。マックで使う五十九円と

スターバックスで使う五百円とは、まったく別物なのである。

スターバックスで五百円だすときに、

ハンバーガー八個分とおもって財布をあけるひとはいないのである。

 

高度資本主義の市場経済のなかに

生きているわれわれは、それぞれ品物のクォリティに

対してはそのクォリティにみあう絶対的な代金を支払っている、

という図式なのだ。

そういう絶対的な代金は相対的価値を生んでいるのだから、

車を買うときに、二百万円の車とちょっといい

シートの二百四十万円なら、

二百四十万円のを買おうか、なんて気がゆるむのもよくわかる。

 

 

四十万円あったら、

ハンバーガーは六千四百五十一個買えるんだぞ。