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ほんとか?

 きょうのスープはよくできていた。

だいたいステディにはできあがるのだが、

やはり生き物、たまに味が変わるのだ。

 

それを、よく言えば「むらがある」という。

 

 おいしいスープの出来栄えのときは、

たくさんのお客さんがいらして、味わっていただきたいと

せつにおもうのだが、きょうのお客さまは

ひどくすくなかった。

 

最後にいらしたのは、お向かえのケーキ屋さんの

パテシエのFさんである。

 

「こんにちは、今日はラーメンお願いします」

 

いつも500円ラーメンを差し上げている。

サービスこのうえない。

 

「きょうもバイトの子来ているの?」

 

「はい、でも、お父さんが具合悪いとかで

4時には帰ります」

 

「ふーん、おれより若いよね」

 

「はい、たぶん」

 

わたしは、かれに、

ラーメンができる3分間に話せるだけ話をつづけた。

 

「感動のコマーシャルってのがあってさ、

タイだったかな、貧乏な子が万引きするんだな。

で、女の人に叩かれ、怒られ、そこに

ラーメン屋のおやじさんが来て、どうした?

この子が盗みを・・、

薬なんか盗んで、だれか病気なのか?   

おかあさんが・・子どもはちいさな声で言う。

うん、わかった、じゃ、これでって、

お金をおやじさん払ってくれるんだ、

おまけに、野菜スープまでその子に渡してやる。

子どもはお礼もしたかどうかわからないまま、

逃げるように走ってゆく。

それから、30年後だよ、そのおやじさん

倒れちゃうんだ。脳の血管かな。

で、病院にかつぎこまれて治療するんだけれど、

むこうの国って保険がないのかな、

莫大な費用の請求がくるわけ。

その請求書を見て、ひとり娘は涙も枯れるくらい泣き、

絶望の淵にいる。

と、つぎの請求書が届き、それをみて娘はびっくりする。

 

請求金額が0になっているんだ。

 

そして、最後にこう付け加えられている。

 

すでに、30年前に料金は支払い済みです。

薬と野菜スープで。

 

と書いてある」

 

「ちょっと待ってくださいよ、感動する話じゃないですか」

F君は、微笑しながらそう言った。

 

「はい、できあがり、大盛にしたよ、

ほんとは900円だけれど、500円ね」

 

「ありがとうございます」

 

「おれも30年後な、頼むよな」

 

と、かれはまた微笑して

「まかせてください」

と弾む声で答えて出ていった。

 

ほんとかい?