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店舗案内

専門家

パートの奥さんと、
わたしははじめて、
お隣ではじまった、「ハーブストーリー」という
紅茶専門の店に寄ってみた。

「なんか、ケーキでも食べれば」

「うーん、いや、太るからいいです」

「そ。太るからいいです、と、太ってるからいいです、
とはちがうんだよ、ね」
と、わたしが言うと、

「あのね社長ね、
そういうこと言ってるから、みんなから、
総スカンくらうんですよ」
と言われる。


わたしは彼女から「社長」と呼ばれているが、
そんなにエラくはない。

彼女は、なんか、赤色の紅茶で、
すこし酸味のあるやつ、

わたしは、ダージリンをたのんだ。

店は、むかしは寿司屋さん、そのあと、
おにぎりやさん、そのあとを
改装して、瀟洒な喫茶店となった。

机の上にはローズマリーの束が置かれ、
ささやかなかおりを放っている。

机は、ローズウッドのようなしぶみ
のある木目。

オーナーは、じつは拙宅のお隣の住人なので、
よくぞんじあげている方である。


 トイレには、卵の殻でつくった芳香剤や、
綿棒や、とくべつな石鹸などが置かれており、
おしゃれ感満載である。

ただ、場所が裏通りのさびれた商店街なので、
それも「ふれあい通り」と言いながら、
ほとんどふれあっていない通りだから、
せっかくの、上質感も値下げ、という感じは
否めない。


 弁当も売っていた。850円という強気な値段設定。
駅前では、岸さんちが、これでもかと
ご飯を詰めて、これでもかとおかずを盛った
弁当が500円だから、勝負にはならないと
おもった。

じっさい、表通りではじまった弁当屋さんも、
500円で売りながら、夕方に20個くらい
いつも余っているのだから、弁当業界、
きびしいかぎりである。


「あの、お嬢さん」とわたしはレジの娘さんを呼んだ。

ここは一家で経営しているのだ。

「はい」

「このダージリン、ファーストフラッシュ。
それともセカンド?」
と、わたしはたずねた。

「は? ちょっと待ってください」
と、彼女は板場にいた父を呼んできた。


「えっと、なんです」


「はい、ダージリンです。
これ、ファーストフラッシュですか、
それともセカンドフラッシュですか」

「え、そういうのあるんですか、
教えてください」


「はい、ダージリンは二度摘みするはずですから、
年によって、ファーストのほうがいいか、
あるいはセカンドのほうがいいか、
変わるはずです」

「あ、そうなんですか、うちはキャメルから
取っているんですけれど」
と、銀色のパッケージをご主人は見回している。

「いや、どこにも書いていません」

「あ、そうですか」

「そのファーストとかセカンドは、
どの紅茶にもあるんですか」
と、ぎゃくにわたしに訊いてきた。

「いや、わたしはダージリンしか飲まないんで、
それいじょうのことはまったくしりません」
と、「ハーブストーリー」の主人が
素人のわたしに訊くのも、ずいぶんとへんな話と
おもったが、わたしは正直に答えた。


 やはり、専門家は知識がないと
まずいわな。

 そういえば、
今朝、米屋さんから米がとどいた。
まだ、袋が暖かいのである。

 いま、取引している米屋は、
朝、精米してくれるので香りのよい米が食べられる。


「へー、まだ暖かいね、精米したてなんですね」
と、わたしが言うと、
「いや。車でもってきたので、
その熱であたたかいんです」
と、すまなそうに店のひとは答えていた。


 専門家っぽいことを言ってしまって
バツが悪かった。

 あんまり知ったようなことを言うと、
あとで恥かくから、やめておこう。


それにしても、
おれ、総スカンくらっているのだろうか。