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白金三人ものがたり

「ミエルちゃんの彼、どこにすんでいるの?」

 

「浦安です」

 

「あ、浦安・・・あの土地悪いよ」

 

「え。そうですか、そうかな」

 

「うん、なんかね、沈んでいるっていうの。

むかし関わった人が住んでいてね」

 

 

「関わったひと?」

 

 

「あ、いいの、いいの。昔のことだし」

 

 

「昼何にするか」

 

 

「わたしなんでもいいけど、鰻以外」

と、ユキさんが口をはさんだ。

 

 

「そうだよな、食えないんだよな」

 

 

「それとピール」

 

 

「じゃ、鰻とピールを一緒に食べちゃうとどうなる?」

 

 

「救急車やね。点滴打ってもらわんと」

 

 

「ところでさ、『アナフィラキシィショック』って知ってる?」

 

と、ミエルちゃんはちょっと首を横にまげた。

 

 

「ほら、あるやん、ピーナッツとか蕎麦とか、

食べると湿疹ができたり、ひどいと死ぬよ」

と、ユキさん。

 

「アナフィラ・・・」

と、ミエルちゃんは覚えられない。

 

「だから、篠山紀信チョップって覚えればいいんだよ」

 

「えー、そっちのほうがわからんって」

と、ユキさん。

 

ミエルちゃんも笑っている。

 

「ところでさ、ミエルちゃんてネオテニィだよね、よくも悪くもさ」

 

「ネオテニィ?」

 

「幼いまんま大人になることらしいよ」

と、ユキさん。

 

「そうそう、幼形成熟。ま、にんげんはだれしも

ネオテニィの部分を持っているんだけれどね」

 

「ネオトニィ・・」

 

「違うよ、それじゃ『ネオ』と『ニィ』みたいでしょ。ネオテニィだよ」

 

「あ、わたし、以前、だれかからそんなこと言われたことあります。

えっと、あ、アンビバレンツ・・」

ミエルちゃんはぼそりと言った。

 

「それさ、全然違うから」

 

ユキさんも傍で笑いながら、

「それって、カタカナだけじゃん、共通しとるの」

 

「アンビバレンツってのは、

両面感情ってことで、

哀しくてうれしいみたいなの言うんだよ」

 

「あ、そうですか」

 

「で、ミエルちゃん、たまには『やすうら』に行くの?」

と、ユキさん。

 

「あのさ、やすうらじゃなくて浦安でしょ。

もう、方向感覚がないだけじゃないんだから」

そう、わたしは答えた。

 

 

「篠山紀信・・」

 

「それは、アナフィロキシィショックね」

 

「ネオト・・」

 

「それは、ネオテニィ」

 

ミエルちゃんは二つの外来語を覚え、

ユキさんは千葉の片田舎の地名をひとつ覚えて、

三人は、目黒でわかれた。