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友人

わたしは友人が少ない。

母もそうだった。
遺伝だ。しかし、教え子はおおい。

ざっと数えて三万人ちかくいるんじゃないだろうか。
そのうちの数十人といまもつきあいはある。
深い子から浅い子まで。 でも、友人は少ない。


 そのなかでも、
わたしのこのうえもなくたいせつな音楽教師がいる。

 星野清。


 ♪象さん、象さん、お鼻が長いのよ
 そーよ、かあさんも長いのよ♪


 この歌は、どんなに醜くても、
わたしは「母さん」の子であるということを
認識する歌なんだそうだ。

これは、その「わが友」からおそわったことだ。


ふーん、おれは「遺伝」の歌かとおもっていたよ、
と、わたしがとぼけて言ったら、



「笑わせるなよ」かれはにやにやしていた。


 いまの、ラジカセ、何ワットとかをひどく問題にしている。


「でも、どうせ機械の音ですから、
限界があるんですよ。
想像して聞く、ということをしないんですよね」
と、彼は言う。


 ああ、想像して聞く、
そんな「離れワザ」できるわけないけれど、
その理念はうなずける。

音楽の先生は、
こんなふうに、わたしの知らないことを教えてくれた。


いまも教えてくれている。

価値観がちがうし、
言うことにいちいち説得力が備わっている。

わたしには人生の師である。

だから、
ともだちなんて気軽に言えない。
が、彼は、鷹揚でこころが
天安門広場くらい広いひとだから、
わたしを「ともだち」と呼んでくれる。

 ありがたい。


 彼は、すごいひとだ。

川でやまべを釣っている。
そこへ漁業組合のひとが、入漁料を取りに来る。
と、

「恥を知れ、おまえたちが放流した
魚ではないだろ。とっとと帰れ」

漁業組合の連中を追い返してしまうのだ。
自然のなかにそだった魚を釣っているのだから、
とうぜん無料なはずだが、
漁業組合のやつらは、そういう釣り人から
金をむさぼり取ろうとしているのだ。

だから、「恥を知れ」と言っているのである。


 御意。

 
もうすぐ6月になる。
新緑が芽生えはじめる、いい季節だ。

そして、星野さんの命日も近づいてくる。