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13歳

わたしの13歳をおもいだしてみる。

 

ちょうど父の転勤で、東京から

小田原に移り住んだころだ。

 

ようするに、わたしは小学校までは東京で、

中学1年生から小田原、というより大井松田という

しょうじきなところ辺鄙なところで

中学校生活をおくったのである。

 

わたしの転居先は、高台にあって、

まだ、御殿場線は蒸気機関車だった。

 

 

まずびっくりしたのは、その中学校は、

男子が全員、五分刈りにしなくてはならなかったことだ。

 

わたしは、じぶんの髪を

修行僧みたいにしたことは

生まれてこのかたなかったし、

おもいつきもしないことだった。

 

これは、ひとつのカルチャーショックだったのだろう。

 

いまでは、そんなことしたら、

やれ体罰だとか、人権侵害だとか、

たいへんなことになろうが、

当時は、ビンタもあたりまえだったし、

廊下に立たされるなんてのも、

しょっちゅうだった。

 

1年生の国語の時間。

 

美しい先生だったような気がする。

お名前は、佐藤先生だったような。

背が高く、薄いブラウスから

背中のブラジャーのラインがいつも透けてみえて、

13歳の少年をいつも刺戟していた。

 

 

いまでも覚えているのは

中間試験、

 

「次の文章を読んであとの問いに答えなさい」と

あって、授業でならった外国の小説で、

スキーに行ってどうのこうの、という内容だった。

 

発問は、

この中の登場人物をすべて書きなさい、というものだった。

 

だから、わたしは、ジムとかベディとか、

その本文にいる人物、全員を書いた。

そして、佐藤先生が抜粋した箇所には、

ジョージがいなかったので、ジョージは省いた。

なぜなら「次の文章を読んで」とあったからだ。

 

そして、答案が返されたとき、

そこの答えはバツになっていた。

 

ジョージが書いていない、というのが

バツの理由だった。

 

だから、わたしは教卓まで行って

「次の文章を読んで答えなさい」とありますから、

この個所読んでも、ジョージは出てこないから、

ジョージを抜いたんですけれども。

と申し出たのだが、佐藤先生は無視された。

スルーである。ネグレクトである。

 

わたしは、そのとき先生を怨んだ。

 

そして、あのとき、わたしは教師になったとしても、

ああいう先生にはなるまいとおもった。

 

そして、教師になってほかの先生とちがうことといえば、

答案用紙を返却するとき、

点数のところを斜めに折る生徒がいっぱいいるんで、

折った裏側にも、ちゃんと点数を書いてあげることだった。

 

だいたいの生徒さんは、三角に折ったとき、

また点数が現れるのでびっくりしていた。

そしてまた折る、とそこにも点数が書いてある。

 

せんせいひまですね、と言われることもあったが、

採点というやっかいな仕事を

生徒さんはしらないのである。

 

さて、

さいきん聞いた話であるが、

この多感な13歳という歳ごろは、

もっとも「なにかを起こす」年齢らしい。

 

これは河合隼雄さんの説だそうだが、

もうしわけないが、原典にあたっていない。

 

そういえば、トムソーヤも13歳だったのではないか。

 

車輪の下も主人公はそのくらいの年齢だったし、

酒鬼薔薇聖斗も14歳。

 

佐世保の同級生を殺した事件も15歳。

 

小学校を卒業して、ひとつ階段をのぼろうとするとき、

ひとは、なんらかのアクションを起こすものらしい。

 

そうやって、じぶんの13歳をおもいかえしても、

引っ越しやら、坊主刈りやら、あたらしい文明との

衝突によって、じぶんの「なにか」がアクションを

起こすことはなかったような気がする。

 

ただ、生徒の切なるおもいだけは、

ちゃんと聞いてあげるような大人に

なってやろうという気持ちだけは芽生えたようだ。