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緊急車両揃い踏み

 遠くからサイレンが聞こえ、

サイレンは確実に我が家に向かってくる。
 坂の中途にある、我がぼろビルの前には、

大岡山派出所からかけつけた、

巡査部長と巡査の警官が待機している。


 そこに坂の上から消防車、二台。

坂の下からも消防車両一台。

車から降りてきた消防隊員、

およそ二十名。

それぞれ違う工具をもって、

だっ、だっ、だっと階段を上がり三階へ。

 

そのあとから、オレンジ色の、

レスキューが一列に十名ほどつづく。

みんな駆け足だ。


 そこへ救急車が、真夜中の闇をつんざいて到着。

 

すでに夜中の十二時をまわっている。

業界用語のてっぺんである。


 救急車から、ストレッチャーが下ろされ、

ストレッチャーの上には毛布、

それに、蘇生用の心臓にあてがう電気ショックの

あの機械も置いてある。

 

救急隊員は三名確認できた。


 田園調布警察からパトカーも来た。警ら隊、二名。


 つまり、わたしの家の前の坂には、

(わたしは、この坂を「志麻坂」と呼んでいるが)

消防車両二台、救急車一台、パトカー一台、

(派出所の自転車二台)

 

坂の上のほうには、レスキューの車両一台、

みんなそれぞれ赤灯をパラパラさせて

静寂な夜の住宅街を赤く染めているのだ。


 さまざまな無線のやりとりと

緊急車両のアイドリングの音。

 


 警察もパトカーと派出所では制服がちがう。

 

 

消防もレスキューを含め三種類の制服、

救急はうす水色のもの。

 

その、色とりどりの隊員が、我が家の階段を上ったり下りたり。

その数、およそ四十名。

なんか軍記物語みたいだが、喫緊の状況。


すでにこの坂は封鎖され、車は通れない。

通れるのは人間だけだ。


 と、そこへ息子がバイトから帰ってきた。


「なに?」


「うん・・」


「どうしたの?」


 それはそうだろ。

せわしなく赤灯をまわしている緊急車両が

勢ぞろいしているんだから、事件にきまっている。

 


「うん、お母さんがな、鍵が壊れてトイレから出られないんだ」

 

「犯人は?」

 


「だから、言ったろ、

お母さんが、鍵が壊れてトイレから出られないんだよ」


「万引き?捕まった?」


「お前、何聞いてるの?

お母さんが、鍵が壊れてトイレから出られないんだ!」