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刹那

 ちびさんのチンチラが、
切開手術をしたものだから、
首に漏斗のようなものをくっつけている。

 女王さまのすがたにちなんで、
エリザベス・カラーというらしい。

 さて、姿をみれば、
「ジャングル大帝レオ」のミニチュア版のようになっている。

 それが、どうも怖いらしく、
兄さんのスコティシュホールドのミルキーは
タンスのうえから降りてこない。


 猫にもストレスがあるのだろう。


 その「レオ」が、孫の「こはる」といっしょに
ベッドに寝ている写メを、「こはる」の祖母が
わたしに送ってくれたので、それでは、
覗きにゆきますか、と、三階にあがる。


 三階につくと、十時を過ぎたのに、
まだ灯りがついていたので鍵を
あけてなかにはいってみる。

 と、ソファに、「こはる」の祖母、「こはる」の母、
そして、臨月の長女まで、腰掛けているじゃないか。

長女のとなりには、エリザべ・カラーまで寝ている。


女三人は、わたしのほうを見るなり、
「なんで、お前がくるんだよ」みたいな
目つきであったが、なにしろ、ここはわたしの家なので、
堂々とソファに腰掛ける。

と、チンチラはいそいでわたしから
逃げるように畳の部屋に行ってしまった。

 
「お前もいたのか」とひとりごとのように言いながら、
わたしは、長女のとなりに腰掛けた。

「いて悪いかよ」みたいな目つきでこちらを
長女はみている。

 と、腰掛けたはずのソファは、
それは背もたれが畳み掛けれたところだったらしく、
わたしは、ソファには座れずに、
そのまま床にごろんと転がってしまったのである。


 それをみて、妻も娘らも、
ひどく冷ややかな目で、
床に転がったわたしを
文字通り、上から目線で笑っている。

とてもしずかなな声だったが、
長女の「ざまみろ」という声がした。


 なんだよ、こんなところに椅子がないのかよ、
と、独り言を言いながら座り直した、
そのとき、ライン電話が鳴った。

 アキからである。

 津市にひとり、大学を出て就職をした子である。

 なにか、虫の知らせというのか、
きゅうに心配になったので、
気づいたら電話しろというラインを送っていたからであるが、
まさか、こんなとときに。

 で、べつに聞かれちゃわるい話もないが、
バツもわるいから、わたしは、「もしもし」と言いながら、
階下に降りていった。

 つまり、わたしは、
三階にあがり、女三人の睥睨にあい、転び、猫に逃げられ、
「ざまみろ」と言われ、電話の音で下に降りていった、
ただそれだけの刹那的な時間を
演じただけであったのだ。