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亭主というもの

 世の亭主というものは、
ほとんどが軽んじられるものである。

 さっき、八百屋によって白菜を買う。

「白菜ください」

「何束ですか? 5、6?」

「いや、業者じゃないんで、その小さいのでいいです」

「業者じゃないですか」
と、主人は笑っている。

「180円です」

「ふーん、安いね」

「安いですか、これ、みなさん高いって」

「あ、そーなんだ、ほかになにか面白ものあるかな」

「奥さん、よくみかん買ってくださいます」

「そう、みかんはいいや」

「おいしい、おいしいってなんども買ってくださいますよ」

「そう、わたし、それいちども、それもらったことないな」

「あれ、そうですか」
八百屋の主人は、すこし困った顔をしていてた。


世の亭主というものは、
そもそもそういう扱いなのである。


むかし、カックンのママが商店街で
「今日は、すき焼きにしようっと、パパは湯豆腐」
と、言いながら歩いていたが、
兵隊さんの位は、ママが牛肉で、パパは豆腐なのだ。


そういえば、ケーキ屋にいって、
ケーキを買わされることがあるが、
ほとんど、いつも妻はケーキを4つ買う。
うちの家族はそのときは5人である。


ふだんは、気にしなかったが、
いつぞや、わたしは彼女に訊いたことがあった。


「この4つってさ、おれの分、はいってないよな」

と、妻はうんとうなずいた。

べつに甘いものがきらいというのでもなく、
食に貪欲なほうなわたしだが、
こと、ケーキとなると、わたしの分はないのである。



何日か前、ふたりの娘が帰っていた。

長女は身重である。次女は娘をつれて、
妻が孫のそばにすわる。

よく見たら、拙宅は、三代にわたる女ばかり、
4人もいるじゃないか。


女系家族とはよくいったものだ。

こんなところでは、わたしはひどく肩身の狭い
おもいをする。


「いちご食べる?」

妻がわたしに聞いてきた。

めずらしい。

わたしがうなずくと、テーブルに置いてある
パッケージから、ヘタを向いて
わたしにくれた。

いちごは、ヘタのほうから食べたほうが
おいしく食べられるそうだ。

はじめて聞いたことである。


このいちごは、長女の旦那さんの実家から、
もらったもので、すこぶる甘いらしい。

たしかに、よく身のしまった香り高いくだものであった。

「ナナコもたべる」
次女に妻がきく。

次女もうなずくと、妻は台所に行って
ひとつぶ、ナナコにわたした。

それを見た、長女がげらげら笑いだした。

「おい、なにが可笑しいんだよ」
と、わたしが訊くと、
「いや、なんでもない」って
また笑い出す。

「なんだよ」
と、わたしが訊くと、

「おとうさんには、洗わずに渡したのに、
ナナコには、ちゃんと洗って、いちご渡している」

さきほど、もうしあげたとおりではあるが、
世の亭主というものは、
ほとんどが軽んじられるものである。