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MX4D

シン・ゴジラがおもしろいというので観にゆく。

ネットで調べると、MX4Dというのがあるので、
ちょっと興味がわく。


 なんでも、椅子が動いたり、風が吹いたり、
水しぶきもあがるというじゃないか。

 映画がフィックションであっても、椅子が動いたり、
風や水しぶきは現実だろう。

 それこそ、これはオーグメンティッドリアリティ、
つまり、拡張現実を体感できるチャンスじゃないか。


 で、映画館に問い合わせる。

 MX4Dというものがいかなるものかを確かめるためである。
それと、料金も確認したい。


 確かめると、椅子がうごくだけでなく、振動とかも
あるらしい。これはおもしろい。

 で、値段を訊いてみた。と、映画鑑賞の値段プラス1200円という。

 まてよ。映画が1800円とすると、それに1200円。
つまり、たったひとつの映画で3000円の出費となる。

 しかし、椅子が動いたり、風が吹いたり、
水しぶきに、それに振動である。


 ここは清水の舞台である。飛び降りるしかない。

と、わたしは、一念発起して、MX4Dというシロモノを
はじめて体感したのである。

 映画館にはいると、ずらりとならんだシートは、ひとつひとつが
セパレートのようになっていて、いかにも、これが
じゃじゃ馬のように動きますよというアウラをかもしている。

 荷物はひざのうえに抱えるしかない。
椅子が動くからだ。

 館内の照明が暗くなるや、
予告編がはじまる。と、すでに、ドンと椅子が沈む。

 これには、初体験のわたしはびくりとした。

 震度4くらいの地震に見舞われたときのような感覚。

 予告編からして、こんなに身体にくるのかと、
驚くやら、期待するやら。

 身体の反応を強制的かつ強引におしつける装置が
MX4Dなのだ、ということにいやがうえにも認識する。


 さて、本編のはじまり。

 アクアトンネル崩落事故。

ここから映画ははじまる。すでに、ゴジラ出現への予兆である。

 そして、椅子が揺れる、動く、沈む。
椅子の底のほうからマッサージ機のような振動。
そして、風。水しぶき。

 すごいぞ。

 わたしは、この空間にしばらく酔った。

 が、どういうわけか、MX4Dに身をゆだねていると、
なんだか、むなしい気になってきたのだ。

 映画というものは、二次元に映し出される映像に
わが身体をゆだね、平面なのに、そこに身体の反応というものを
導き出す装置だったはずである。

 つまり、映像だけで観客の身体の反応を参加させるのが
映画の真骨頂だったはずである。

 なのに、なんで椅子を揺らしたり、水しぶきをだすのか。

 それは、観客の想像力の欠如をことごとく証明していることに
ほからないのではないか、と、わたしはおもってしまったのだ。

 ようするに、観客の身体を利用して、映像は語りすぎはじめているのである。

 観客が、その画面から、地響きや吐き出す炎やらを想像しながら
楽しむ、というのが映画ではなかったのか。

 まるで、「これはこういうものですよ」と与えられた
誕生日プレゼントのようなものである。
 開ける楽しみは、本人にまかせてもらいたいものである。

 それをこの中身はこうですよ、と告発されてから開けたのでは、
快楽がひとつ減ったことになる。お祝いされる当事者は、
ただ、パッケージを剥くという行為だけが、
残されたことになる。

 開ける楽しみを奪うことが善なのか。
と、おなじく、想像によって身体に反応させるのではなく、
強制的に、反応させることが善なのか。


 MX4Dという装置は、われわれが想像力を失いかけている
という警鐘なのかもしれない。