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なかよくやろう

 ヨーロッパ近代は、自然を克服するのがにんげんの知性だ、
というようなかんがえが横行した。

 三匹のコブタの話などは、典型的な寓話である。


 狼という自然のメタファがけっきょくレンガには勝てない、
というわけだから。


 デカルト二元論などは、その代表選手である。


 じっさい、ヨーロッパの気候は、父性的で力強く、
にんげんにきびしいものであるから、そういうかんがえが
しぜんにして浮かぶのだろうが、

こと、日本は、やわらかい母性的な四季のある自然、
トトロがへいきで飛び出したり、
マックロクロスケがちょろちょろする世の中だった。


 良寛さん、しかり、一茶しかり、しぜんと溶け合って
生きていた(はずだ)。


 ・焚くほどは風がもてくる落ち葉かな  良寛


が、さいきんのひとといったらどうだろう。


自然と調和もとれなければ、共存もできなくなってきた。

まず、いちばんはじめの兆候は、くちびるだった。


冬になるとカサカサで、リップクリームをつけなければ
やってゆけない世の中だ。


三四郎や坊ちゃんが、リップクリームを塗りたくっていたなんて、
そんなくだりはどこにもない。


あんな寒いところに住む駒子でさえ、リップなどつけていた
形跡はない。


それから、紫外線の強さ、これに耐え切れず、
ついに、雨も降らぬのに傘をさすようになった。

このごろは、日傘をもって自転車を漕ぐ女性もいる。


夏は、日焼け止めのクリームがよく売れるだろう。


それから、マスクである。


さいきんは、マスクが多くなった。

花粉、ウィルス、埃、さまざまな外部の「汚れ」を
マスクが守るような時代となった。


わたしが、子どものころにマスクをしているひとを
ほとんど見たことがなかったのは、
とくべつな事情でもないだろう。


むかしは、いたよな。半ズボンにランニングで一年中
ほっつき歩いていたガキが。


オゾン層の破壊をいち早く発見したのは、
日本の越冬隊員である。

 ポカンとでかい穴が天空にあいていたのだ。


もともと、自然破壊をもたらしたのは、
ヨーロッパの産業革命と、デカルト二元論などである。


あれから40年、いや、もっとだな、アメリカや中国や、
諸国あらそって二酸化炭素や有害物質をばらまくものだから、
ついに、にんげんは、自然と仲良く暮らすことができなくなってしまった。


もともと、ヨーロッパ人は自然と敵対的なかんけいにあったから、
それはそれとして、これだけ自然とともにあゆんだ
我が国が、リップクリームにマスクに日傘をつかって
生きてゆかなくてはならなくなったのだ。


そろそろ、にんげんという生物の終焉が訪れるのだろうか。

ホーキング博士によれば、地球はあと二三十年で、
だめになる、と予知しているけれども、どうか。


そういえば、自然と共有できなくなったことの
端的な例は、いまの若いやつらは、
虫がきらいなのだ。



うちの店でも、暑いから入口のドアを開けていたら、
学生さんらしきひとが、ドアを閉めるのだ。


「寒いんですか」

と、わたしが訊くと、かれはこう答えた。


「虫がくるんで」