「この下に、これ置くのやめてくれって、
ユウコが言っていたけれど」
「なんで?」
「なんかね、汚れるのが嫌なんだって」
わたしは、シラガ2000を指呼してそう言った。。
「シラガ2000」とは、白髪ネギをつくる機械である。
板状にしたネギを本体の上に差込み、
取っ手を回すと白髪ネギが簡単にできる。
それまでは、白髪ネギは包丁で切っていた。
が、それは面倒なんので、東急ハンズに、
白髪ネギ専用のカッターがあり、
それでガリガリやっていたのだが、
ナナコの母が、そのおかげで腕があがらなくなった、
と、これみよがしに、膏薬を何枚もひじあたりにはって
わたしに陳情したのである。
そんな様子を毎日見せられてはたまらないので、
やむをえずシラガ2000を購入したのだ。
定価5万円である。
痛い。
おしどり夫婦という死語があるが、
わたしどもは、昼のほとんどをいっしょに働いている。
けっして仲良しではない。
だいたいわたしが言うことに、笑いもしないからだ。
「どこにこのシラガ2000置けばいいかね」
「ないんじゃない、置くところ」
「うーん、この炊飯器の下もいっぱいだしな。
そうそう、この棚、むかしはなかったんだぞ、覚えているか」
「そうだったっけ」
「そう、あのうすいブルーのうちにあったテーブルだった」
「あ、そうだ、でも、あなたって棚好きだよね」
「え、好き?」
「棚、買ってくるの好きじゃない」
「うーん、収納が好きだからな」
妻はめずらしくこのひとことで身体をくねらせて笑った。
「収納が好き? は・は・は、ナナコ今日くるから言ってみよ」
どーせ、おれの部屋は汚いよ、うるせーな。
そういえば、さいきん、シラガ2000で白髪ネギを切ってから、
ナナコの母は、こんどはひじよりすこし上のほうが痛くなったと、
べつの場所に膏薬をはりはじめていた。
(いまは、包丁でネギは切っています)