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急げ

 月曜日は予備校の仕事をいれていない。

 バドミントンをするためだ。
なんにも金銭的にプラスにならないのだが、
コミュニティ主催の飯島さんから言われたので、
しかたなく引き受けている。


  もちろんラーメン屋も月曜の夜は開店休業である。


 バドミントン会場まで、駅でいうと5つくらい離れているので、
わたしは自転車でむかう。

 5つといっても所詮、東京、20分くらいの道のりだ。


 きょうは、気温が4℃。厚手の手袋に毛糸の帽子、
それにグラサンもかけて出発。

 グラサンをかけないと目が痛い。
ドライアイなのだ。

  商店街は、この真冬でも人通りは多い。
わたしは、老人やおしゃべりしながらの主婦を避けながら
背中にテニスバックを背負い自転車を走らす。

 と、駅前ちかくになったところで、
向こうから、主婦なのだろうか、自転車を漕いでくるひと。
しかし、それは、ふだんでは見られない、異様な光景だった。

 その自転車を横から倒しながら男が怒鳴っているではないか。

 乗っているのではない。
その女性は斜めになった自転車を倒れないよう
にハンドルを押さえながら歩いている。


 自転車を鷲掴みにした男は、それでもなにか怒鳴っている。
いまにも自転車は転倒しそうだ。

 女のひとはひどく狼狽しているようにみえた。

 どういう事情でそうなったのか、わたしどもにはわからない。

どうすればいい。

 と、そこへ、べつの男がどこからか飛び出してきて、
とっさにその男に飛びかかったのだ。

 自転車の男は、その男とともに地べたに倒れた。
そこは、珈琲屋のまえで、数台の駐輪している自転車があり、
そのすべてをなぎ倒してふたりは倒れた。

 さながら場外乱闘である。さながら平家物語の壇ノ浦。


  当事者の女のひとがどうなったか、
もみくちゃになった男ふたりがどうなったか、
わたしはしらない。

 なぜなら、わたしはその場をそのまま離れたからである。


 だが、わたしはその足で交番に向かったのだ。

 交番までは目と鼻の先である。


 交番までゆき、わたしは自転車に乗ったまま
呼びかけた。
 
  なかには、ひとりの一般人とふたりの警官がいた。

 「喧嘩です。喧嘩。すぐ行ってください」

 と、ふたりの警官はわたしを見た。

 あれ、ひとりはあいつじゃないか。
おれを、こともあろうに職質したあいつじゃないか。

 「あ、ヤマカゲくん、すぐだよ、ドトールの前な」

 と、ヤマカゲは、なんかすこし困ったような
(なんでおれの名を知っているのか)
そんな顔をしたけれども、
すぐさま自転車に乗っていった。

 そこでわたしは、自転車に乗ってゆくかれを見ながら言った。

 「ヤマカゲ、急げ!」