もうひと昔まえの話である。
古舘伊知郎さんが、ニュース番組を降板した。
もうしわけないけれども、
古舘伊知郎という、あの軽快、洒脱なトークは、
ニュース番組にはミスマッチだとずっとおもっていた。
そもそも、「これはひどい事件ですね」など、
キャスターが意見を述べるという構図は、
あんまり感心できない。
NHKのように、淡々と出来事を羅列してもらえれば、
常識ある受け手は、ことの善悪くらい、
みずからでもって判断するものだ。
つまり、「手垢」をつけて報じないでくれということである。
もともと、こういうふうにキャスターが、じぶんのかんがえを
さらさら述べるという仕組みを作ったのは、記憶が確かなら、
久米宏である。
ぴったしカンカンの司会。あれで一躍有名になった(のかな)。
久米宏のあとが古舘である。そして、その後継はいない。
いま、久米さん、「らじおなんですけど」という軽い番組を
土曜日の昼に担当している。
後継がいないということは、政界でもおんなじで。
阿部さんのあとがいない。小泉ジュニアが待たれるところであるが、
その間を担う人物がいない。で、自民党は、橋下徹を引き込もうとしている、
といううわさもある。小渕ジュニアは、金銭問題で、すでに
その名簿からはずされた。あれは、総理補佐官の脇の甘さが原因であるけれども。
話をもどせば、いま、テレビで自民党批判の強いのは、
この古舘さんと、毎日の岸井社主らしい。
岸井さんは、うわさによれば、ずいぶん圧力をかけられていて、
社主の座も危ないらしい。
さいきんの政治は、たいそう高圧的になってきたものだと、
つくづくおもうが、それにしても、
古舘さんはずいぶんつらいおもいをしたのだろう。
言ってはいけないことが山ほどあるからだ。
言ってはいけないことが山ほどあるうちの、
ほんの裾野をしゃべると、与党からの圧力。
日航機123便の事故から30年いじょう経つが、
じつはまだ事故原因がわかっていない。
あの事故の7年前に、ボーイング747は大阪でしりもち事故を起こし、
ボーイング社が修理していて、そのときの修理の仕方が
悪かったと、事故からすぐにボーイング社が、
コメントをだしている。
つまり、747の機種の欠陥ではなく、あの123便だけのミスだ、
そうボーイング社は結論づけた。
事故調査委員会も、そのコメントに同意している。
しかし、では、どういうミスだったのか、あるいは、
どういうふうな修理をしたのか、そのあたりは、まだ、
ボーイング社からも、事故調からもコメントがないままである。
当時、747ジャンボジェットは、世界各国を飛び回っている
主力の飛行機であった。日航のジャンボは、サイズがやや小さい
ショートボディで、あれは日本だけのものだったが、
とにかく、ここで747ジャンボそのものに欠陥があるということになったら、
ボーイング社にものすごいリコールの風がふく。
それを避けたというのが、あのときのコメントだった、
そんなことをテレビで言ったら、どうなるか。
あるいは、田中首相が、アメリカに内緒で中国と国交を結んだ。
そのすぐあとである。ロッキード事件が起きて、
田中角栄は、首相の座を下ろされる。
アメリカの怒りをかったのである。
ロッキード事件と日中国交正常化交渉とは
地続きの一連の歴史なのだ。
そういうことを、歴史の教科書でも、
ニュースでもドキュメンタリーでもやらない。
ハワイで数年前、海岸で、わかい邦人女性が現地の男に撲殺されたが、
このニュースは、どの局も新聞も週刊誌もとりあげられなかった。
後藤健二さんや山本美香さんよりも悲惨なできごとだったかもしれないのに。
わたしたちは、ある篩にかけられ、あるいは、バイアスをかけられ、
角のとれたやわらかいニュースに浸っている。
世の中の裏で、何が起きているのかじつはよくわかっていないのである。
とういうことは、この世の中に、やはり、
パラレルワールドがある、ということだよ。
そのパラレルワールドは、
ある選ばれたひとたちの受益のため、しずかに動いているのである。
しかしだ、ともかくも、
おれのなくした靴下だけは、
その世界からはやく取り戻そう。