Menu

お得なアプリでクーポンGet!

店舗案内

ダークツーリズム

ダークツーリズムという概念は、そんなに古くない。

90年代後半、スコットランドのある大学でふたりの学者によって
提唱された、いわゆる負の遺産をめぐる旅である。


 戦争跡地や、災害被災地への旅行である。

 そういえば、わたしも修学旅行の引率で、
雲仙普賢岳を、バスで遊弋(ゆうよく)したことがあるが、
あれこそ、ダークツーリズムだったわけだ。

 ひとびとが犯した罪、あるいは、
ひとびに与えられた自然の脅威、
それを次世代に繋げるためにも、こういう概念は、必要なのだろう。

 ウクライナのチェルノブイリや、
ルーマニアのブラン城、
ニューヨークのグラウンドゼロ、
広島の平和記念公園、
カンボジアのトゥール・スレン虐殺犯罪博物館、
そして、なんといっても、
ポーランドのアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所。

アウシュビッツはドイツではなくポーランドに位置する。

そういう意味では、福島第一原発は、まだ、その概念下にはない。


たしかに、子々孫々に語り継ぐことは
わたしたちの責務なのだろうが、
ただ、われわれが気をつけなくてはならないことは、
こういう空間を、利益追求、金儲けの種にしないことである。

また、まだ、その瑕から脱することのできない被害者が
存在することも忘れてはならないことである。

なんてことを、授業の最後に語ったのであるが、
そのとき、ひとりの男子生徒が
授業の最後とあって、多少疲れがあったのだろう、
うーん、と椅子に座りながら「伸び」をしたのだ。

と、なんと、その痩身で背の高い男のへそと、
へそのまわりに繁茂する毛、いわゆる腹毛が、
もののみごとに、露わに露出されたのだ。

わたしは、おもわず、唸ってしまった。
唸ったのを最後にその授業を終わらせた。

だから、わたしは、最後にこう言ったのだ。

「はい、じゃ、きょうはこれでおしまい。
しかし、こんな近くで
ダークツーリズムできるとはおもわなかった」