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卵のはなし

 卵を剥かなくてはならない。

 黄身がとろりとした卵である。
白身はつややかにひかり、剥いたあとは
赤児の頬のように初々しくてやわらかい。

 出来のいい卵とはそういうものだ。

 その天使のほっぺを作るのには、いろいろなコツがある。

 まず卵に穴をあける。
ほんのささいな穴でよい。ダムならそこから決壊するのだろうが、
その穴からたっぷり湯が卵のなかにはいりこみ、
剥くときに、つるりとなるのである。

 沸騰した湯に6分漬ける。これも季節によったり、
時間によったり。また、その湯の状態によって、
いささか時間にズレが生じる。

 卵を入れたらかき回す。
黄身が片方に寄らないためである。

 しかし、いつでも優等生のやつらではない。

たまに、とくに夏などはひどくへたばったらしい卵が
業者かから届くので白身が黄身を支えきらずに、
ぼろぼろに壊れてしまうのである。

 ようするに使いものにならない、というやつだ。
商品としてだせないものだから、ひとつやふたつは
店主の口に抛りこむのだが、そんなに卵ばかりを口にはできない。

 剥き方というのは、コンコンって叩いたら
卵を縦に人差し指で剥いゆく。ズボンのチャックをはずすように。
そうして、縦に白身が出てきたところから左右にするっと剥く。
これは、すべて水中の仕事である。

 だいたい、上出来の卵だったら、ひとつ
20秒かからないとおもう。

そして、マリリンモンローのおしりのように
きれいに剥けた卵ちゃんたちは、
うすい醤油の中に陳列される。

 そうすると一日で、とろりとした黄身に
ほどよく味がつくのだ。

 しかし、さいきんの卵は、やはり、体調がわるいのか、
するりと途中までうまくゆくのだが、
最後の最後で、白身が殻のほうについてしまって、
「はい、それまでよ」ってことになる。


 白身が崩壊してしまったモンローは、
もう舞台に立てやしない。お払い箱てある。

 もったいないがごみ箱に安置されることになる。
 
 そうさせたくないものだから、
卵剥きは慎重による慎重さが必須なのだ。


 しかし、そうおもっていても最後の最後で
「ああ」ってことになって何個、葬ったことか。


 悔しい。


 この悔しさを喩えるならば、
さしずめ、9回に韓国に逆転された日本のようなものなのだ。