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左ばかりが

ひだりの足の小指をいやってほどぶつけた。


 そこにベッドがあったなら、わたしはおもわず、
それにダイビングして、おもいきりの声を張り上げていたはずだ。
繭のように丸まりながら。

それ以外に、どこに向けていいか分からぬやるせなさを、
昇華させてやる方策がないのである。




 だが、そこにはわたしを救う装置はなく、
ただ、足をひきずってわが部屋に戻るしかなかった。


 で、その悲惨な現状を見るのは、とても怖かった。

にんげんというものは、不思議なもので、
じぶんに不都合なことが起こると、それを回避しようとしたり、
ネグレクトしたりするものである。


 ジンジンと痛むわが小指を、わたしはネグレクトした。
だって、怖いからね。

 
 そして、その激痛と対面したのは翌日のことである。
どんなになっているのだろう、おそるおそる。
勇気をふるって。


 と、わが小指は、三倍くらいに膨れ上がり、
みたこともない色に変色していた。

 ザクロの実、ほどよく焼けた中華街の叉焼、非加熱ロイヤルパープルサファイア、
ま、いろんな形容をしても、痛いものは痛い。


 しかし、老い先短し、ほっとけとばかり、いまも放置している。

 その次の昼、白髪ネギを切る機械で、ひだりの薬指を切った。

 白髪ネギを切る機械を購入して、まだ日は浅い。

無数の歯が円盤状になっていて、そこをネギを通すことによって、
白髪ネギがいとも簡単に作れるというシロモノだ。

 ただ、それを洗うのに手間がかかる。ネギがはさまってとれない。

ハンドルをぐるぐるやりながら
水で流しながら洗っているとき、支えていた左手に
その歯が触って、指がきれいに直線に切れたのだ。

つまり、薬指がネギとおんなじ運命をたどったということである。

傷口は、まず、ぱっかりと開き、そして、すこし遅れて、
なじみぶかい血液が流れ始めた。

横でみていた紫陽花さんも「わっ」とか言っていたような。


その傷は、コロスキンというボンドのような液体の薬で固めて、
どうにか難を逃れたのだが、痛いことにはかわりない。


 その夜である、わたしが寝につこうとベッドに向かうとき、
なにか足の裏に痛みがはしった。これは、小指のものとはべつものである。

 うおの目かとおもった。わたしはすこし引きずりながらベッドにもぐって、
こんどは、その痛い部分をさすってみた。

 と、ご存知かとはおもうが、ガラスが刺さっていたのだ。
もちろん、左足である。

 そういえば、昨日、ワイングラスを割って、掃除したのだが、
そのグラスの残骸がまだあったのだろう、そいつが、
わたしの左の足の裏に直角にささったわけだ。


 なんで、こうも左ばかりに難が訪れるのだろう、

大難が小難に、小難が無難に、となぜならないのだろう。

 左手は、わたしのささやかな霊感のかんじる部位である。
右手にはない。
左手をかざしていると、相手の悪い部分とかが、見える時がある。
右にはまったくそういう能力はない。
ということは、何者かが、わたしのそれを抹殺しようとしているのだろうか、
あるいは、邪魔をしている・・・

 うーん、おもいあたることがない。

 そんなことをおもいつつ、セブンイレブンで買った惣菜を食べようと、
箸をふくろからだそうとしたとき、なかに入っていた楊枝が、
ぐさって指に刺さったのだ。

 こんどは右の人差し指だった。