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店舗案内

師匠の来店

横浜磯子にあるラーメン店「亜舵夢巣」。

これで「あだむす」と読む。
星野さん(享年56)が見つけたラーメン屋である。
正統派の丸鶏ベースの醤油ラーメン。


そのご店主と、奥様、息子さんがご来店。

はじめてのことである。

つまり、わたしのラーメンの師匠が、わざわざお越しくださった、
ということである。


「亜舵夢巣」

むかしは、ベイサイドマリーナの正面で、
ヨド物置のような、数名のカウンターしかない店だったが、
いまは、移転してレストラン風の中で営業している。

「食べログ」で「亜舵夢巣」をみると、
酷評から絶賛まで、さまざま。

あれほど評価が分かれる店はないだろう。
「日本一まずい」とか「スープのだしがわからない」とか。


わたしは、師匠からこのスープの作り方、
ネギ油の作り方、麺の値段(ここは自家製麺)、メンマの作り方、
チャーシューの焼き方、すべてを教わっている。


(以前、営業中にもかかわらず、いっしょにコストコまで
ついていってくれて、チャーシューの窯などを
みつくろってもらったこともある。
第一、うちにある券売機はここから「ただ」でいただいたものなのだ)


だから、この酷評を書くやつをみて
「なんにもわかってないな、こいつは」ってほくそ笑んでいる。


黄金色のスープで
麺はストレートのしっかりした腰、
チャーシューは炭火で深みのある出来、
あれをまずいというやつは、
たぶん、アメリカ人よりも舌の出来の粗悪なやつなのだろう。


が、このあいだわたしが「亜舵夢巣」に行ったとき、
わが師匠は、げっそり痩せて、なにしろ声が出なかった。


気さくな奥さんは、「もうねぇ、ひと月もご飯たべなくってねぇ」
なんて笑っているが、わたしはそのとき予感した。

「・・・」

「亜舵夢巣」に行くときは、いつも土産を持参するのだが、
そのときは、備長炭をひとケースもっていった。

それがうれしかったのか、あるいは、そうでなくて、
十数年のつきあいで、一度は、「しま坂」を見てみたかったのか、
あるいは、・・・。



ご家族は、ラーメンとぞうすいを召し上がった。

「あら、きょうはお父さん、よく食べたじゃない」
奥さんは、いつもあかるい。

師匠も「お・い・し・い。想像・し・て・た味・だよ」
と、喜んでいるようだった。

息子さんがいまでは製麺しているらしく、
こんど、調理師免許を取りたいそうで、
わたしに保証人になってくれと、いうので、快諾した。

磯子から大岡山まで往復70km。


とつぜんのご来訪は、驚きであり、このうえもない嬉しさであり、
そして、わずかばかりの切なさをわたしに残したのだった。

 

 

二伸

ただ、師匠の店は閉店してしまいました。