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省略文化に物申す

 昼の授業だったから、前のほうにすわっている女子に、

どこで昼たべた、と訊いたら、スタバ。

なんだい、スタバって。それも、主語もなければ述語もつなぎことばもない、

唐突にスタバである。といったって、現代をともにあゆんでいるわたしには、

これがスターバックスの省略であることはすぐに了解できた。

いや、すぐじゃなかったな。スタバといったらふつうは、

すた場、を連想するじゃないか。ところで、すた場ってなんだろ。

 

 で、わたしはその子に、

おいおい、省略形で言うなよ、スターバックスで食べたんだろ、

と確認してみたら、はい、とうなずく。

まてよ、わたしの知っているスターバックスっていうところは、

デパートのフロアに、フロアかとおもったら机やいすが置かれ、

グラデーションで店ができているさいきんの喫茶店、

食事なんかできたのかなとおもったので、

また、訊いてみた。ところで、スタバで何食べたんだよ。

と、その子は、ベーグル、と答えた。

もちろん、主語もなければ述語もつなぎことばもない、

唐突にベーグル、である。なんだよ、ベーグルって。

だから、またわたしは、その子に向かって、

おいおい省略形でいったらわかんないだろ、はっきり言えよ、と言ったら、

なんだかクラスがざわざわしている。

どうもとんちんかんなことをわたしが言ってしまったみたいだ。

 

先生、ベーグルって省略じゃないんです、

もうしわけなさそうに、べつの子がわたしにこっそり教えてくれた。

え、ベーグルっていうわたしの知らない食べ物が生まれている、

これはさながらジャングルの小野田さん、

ちょっとショックであり、

未知なる食料がわたしの生活圏のすぐそばまで

忍びよってきているという驚きでもあった。

 情報はしっかりと吸収して時代に乗り遅れないようにしないと。

ナマハンカの知識で、おれ、ベーグル行ってスタバ喰ってきたんだ、

なんて言ってみろ、末代までの恥となる。

 

 ところで、さいきんは省略形が若者に氾濫している。

省略で言わなければ仲間にいれてもらえないような勢いだ。

マック、ミスド、ケンタ、ムジ、ファーストフードからはじまりショップに至るまで、

ありとあらゆる省略形の世、ついには、ば台、が丘、と地名を短くしてしまう。

が、が丘、自由が丘のことだよ、というのはいかがなものか、

向ヶ丘、藤が丘、霧が丘、そこら中にある名なのに、

自由が丘が独占していいものか、だって、

が丘に二時っていったら、みんな、べつべつのところに集合しちゃうぞ。

だから、自由が丘は、オカジュウと言ってもらいたい。

それなら世界でひとつのニックネームになる。どう。

 

 バイトの女子が、しばらく空き時間があるから、

「じゃ、マンキツ行こうかなあ」って言うんで、

まてよ、うちの街にあったかなあ、

と考えていたら、彼女はわたしを横目で見ながら、

「漫画喫茶」のことだよ。

 

 おい。そんなことくらい、いくら呑み込みの悪いおれでも、わかるよ、

おれは、うちの街のどこに漫画喫茶があるか、

考えていたんだろ、と口をとがられながら言ったら、

「『ap』の上だよ」

と、彼女。え、ap。どこにあったっけ。と彼女は、

「エイエムピーエムだよ」

「・・・」

 

あのな。そんなことわかるよ。

おれはエイエムピーエムがどこにあるのか考えていただけだろが、ばかにするな。

 

 ともかく、わたしが言いたいのは、

省略文化が、若者のステータスあるいはロートルとの

隔絶のアイデンティティであるとおもうのは早計であるということだ。

われわれの社会、世代をばかにするなよ、

われわれは、君たちよりとうに早い時期に

省略文化のはしりを作り上げてきたのだ、それがこれ。

 

 モロキュウ、である。