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音姫

 ようやく洋式トイレが普及してきてほっとしているが、

子供のころからしゃがみトイレが苦手だった。

ズボンをちょっとずらして座れないのである。

全部脱がないと。

だから、あの閉塞感のある空間でズボンを脱ぐなど

文字どおり至難のワザ、おまけに革靴を

履いていれば脱がなきゃいけないし、

うかうかしていると便器にズボンの裾が

つかってしまう、

脱いだズボンをかけるところがあるならまだしも、

フックのないのっぺらとしたトイレじゃしかたない、

ズボンを首に巻いておく。

けっきょくわたしにとってトイレひとつが

すこぶる悲劇的な現場になってしまうのだ。

 

ところで、しゃがみトイレ、

つまり和式トイレで気になっているのは座り方と

紙のおしりへのもって行き方。

かかとをあげてつま先立ちのようなスタイルで用をたすのか、

あるいは、ぺたんとかかとをつけてするのか、

また、紙はじぶんの前からそっと手をのばし拭くのか、

あるいは、背中の方から手をまわして拭くのか、

わたしは大学時代、

このへんの事情を友人にたずねまわったことがあるが、

やはり、シモのはなし、だれしも積極的にならないからはっきり言えないけれど、

どうも半々だね。かかとを上げる派、

ぺたんとしゃがむ派、前から手をさしのべる派、

うしろからぐるり派。

うしろからまえからどうぞとはいかないものなのだ。

 

その点、洋式トイレはスマートだよ。

映画で男の前でトイレにすわって

傾国の美人がおしゃべりしながら色っぽい目でおしっこをする

シーンなんかあったけど、

和式じゃ、ああはいかない。

とくにスマートになったのは、ウォシュレットもさることながら、

音姫、これである。

 

用をたすときに水の流れる音を人工的に流し、

排出のときの無防備な音をカモフラージュするのである。

かわいい女高生が、

単気筒バイクのエンジンふかしているような

音だしていたらびっくり興ざめ。

 

ところで、音姫にはちょっと欠点があって、

水の音、一種類しかないのである。

やはり、三つくらい選べないと。

たとえば、一番は小川のせせらぎ、

二番はハナ肇の「あっとおどろくタメゴロウ、なっ」とか。

三番はすごいぞ。ゴジラの雄叫び。

これなんか大音量だから、どんな爆音もカバーできる。

おい、いま、ゴジラ鳴かなかったか、

ああ、向こうのトイレの方じゃないか、

と、見ているそばから女のひとが出てきたりして。