むすめの写真が心霊写真になっていた。
いま、どこの放送局でも怪奇現象特集がはやっているが、
まさか、家族のだれかにそんなものが写るとは。
怪奇現象というのは、とっつきやすい話題だから、
アンビリバボーだって、心霊写真特集が多くなった。手抜きだね。
むすめのもってきた写真には真ん中に退職される先生、
まわりの生徒たち数名が写っていた。
退職される先生はちびまるこちゃんのおじいさんみたいな風貌で、
これ心霊写真だよってむすめが持ってきたとき、
さいしょはこのひとが心霊写真かとおもったが、
それにしては、真ん中によく写っているななんて見ていたら、
その肩のところにいるではないか、
横の生徒の肩とのあいだにすこし斜めに上を向いている女高生が。
顔の大きさは先生のはんぶんくらい、
よく見ると、両手がうっすらと見えて、
横の生徒の肩に抱きついている。
うしろは職員室のドアでひとが入り込む空間などあり得ない。
わたしはそれを見るやいなや、
背筋が凍りついた。ねぇ、写っているでしょ、
とむすめが訊いてくるから、ああ、写っている、
これやばいよ。え、どうすればいいの、とまた訊くから、
とにかく、おまえはしばらくおれのそばに来ないでくれ、と言ったら、
え、とか言ってむすめはひどく悲しそうな顔をした。
しかたないだろう、写っているのはむすめで
わたしにはなんの関わりもないのだから。
退職される先生は、評判のいい先生で先生を
慕って出てきたのか、あるいは、横の女の子の守護霊か、
けっきょく家ではそんなのんきな結論に落ち着いたのだが、
それでもむすめは気がかりだったとみえて池上本門寺に持っていくと言ってた。
で、わたしは気がついた。むすめはカメラを持っていないから、
あの写真は、写るんです、かなんかで撮ったにちがいないが、
ひょっとすると、写るんですの100個にひとつくらいは、
もともと心霊写真が刷りこまれていて、
それで撮ればだれが写しても心霊写真になるんじゃないだろうか。
コアラのマーチのひとつにまゆ毛が書いてあるのと同じように。
つまり、写るんですの心霊写真は大当たりなのである。
そんなはなしをクラスでしていたら、ある生徒が言った。
ポジティブだ。
ところで、さいしょから心霊写真がすべての
ネガに刷り込まれているカメラが販売されたら
けっこうおもしろいんじゃないか、
ホンテッドマンションのコースの最後みたいに。
売れるぞきっと、その名も文字どおり、
写ってるんです。