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防衛本能

 むかし手乗り文鳥を飼っていた。

白とまだらの2匹、人をこわがらないから、

よくなでたり、口からえさをあげたり、逃げもしないから、

文鳥をひっくり返して机のうえに置いたりもした。

そうすると、鳥というはふしぎなもので、

ぴくりとも動かなくなってしまう。

 

 ひっくり返された文鳥は迷惑そうな顔も苦痛の表情もみせず、

きょとんとしておなかをみせている。

ひとりで寝技をかけられているみたいだ。

 そのへんの事情をどこかのものの本で読んだことがあるが、

鳥にはひっくり返されたときの防衛本能がなく、

つまり、どうしたらいいか脳から命令がこないので、

ああやって動かなく、というより、動けなくなってしまうらしい。

 防衛本能は動物ならかならずそなわっていて、人間も例外でない。

 

さいきんテレビでやっていたのだが、

ゴミ屋敷という、じぶんの家に建武の

新政ころからあつめたゴミをためている屋敷があって、

これは近隣、迷惑だよ、ハエはうようよ、

ゴキブリは大集合、カラスはばさばさ、

悪臭は周囲1キロにおよび、大田区ではおかげで

条例も作られる始末。

で、その屋敷の住人の羅生門ばばのインタビューがふるっている。

「どうせね。私は人間でないんだから」

 

 そう言われた瞬間「え。あなたは人間ではありませんか。

だって血も通ってるし、心臓も動いていて、

だいいち、こうやって会話をしているではありませんか」なんて言えるわけない。

「人間でないんだから」と言われたインタビューアーは

すっかり固まってしまって、

二の句がつげないでいた。フリーズしちゃったのだ。

 

 ようするに、人間は、とくに日本人は、

こんなふうに開き直られたときの防衛本能がないのである。

すこぶる開き直りに弱い。

 

 電車で痴漢をされたと嘘ぶいて金を

脅し取っている女子高校生がテレビにでてきて、

大人から「悪いことしているとは思わないの」と訊かれ、

「べつに。わたしが得しているんだから、悪いとは思いません」って言ったところ、

だれ一人、その場にいた識者たちは反論ができず、

見ている私が歯がゆい思いをしたのだが、

やはり、開き直られたときに対処のしかたがないのである。

そういう防衛本能のない人間をオノマトペで表現すると、

「たじたじ」である。

 

 開き直りが日本人には

ひどく効果的であることを知っている

こどもたちあるいは大人たちには、

どうやって向きあっていくべきなのか。

 

すくなくとも、

うかつにひっくり返されないようにしなければ。