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トラウマ

 トラウマということばがはやってきたのは

いつごろだろうか。

だいたいわたしの持っている小学館の辞書にはでていない、

「現代国語例解辞典」と「現代」がついているくせに。

ちなみに、トラウマを「ウシトラ」と言い間違えた人がいたが

干支じゃないんだから。

 

で、「知恵蔵」でしらべてみる。

1980年の米国精神医学協会が提唱した考えで、

自然災害や戦争被害によって生命の危機を体験したり、

財産や家族を失うという心的外傷をいう。

通称、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という。

 

 じゃ、わたしのトラウマはなにかといえば、ひとつは自動改札

口だ。ま、知恵蔵にいわせれば、

自動改札機で死にそうにも財産も家族も失っていないので、

まったくトラウマではない、

が、ストレス障害をおかしていることは明白なのだから、

名付けて仮性トラウマ、で、ちゃんとしたのを真性トラウマとでも呼ぼう。

ことわっておくが、もちろん、この真性と仮性という語彙は

包茎の呼び名でいうところのテクニカルタームを

拝借しているのであるが、その仮性トラウマだが、

自動改札というやつは力ずくで切符をすいこみ、

無機質な機械音とともに強引にはき出す。

まるでベルトコンベアに乗せられて、

ナチスの検問を受けているようないやな感覚、

ひょっとすると膝頭くらいのあの扉が

非情にもしまってしまうのではないだろうか、

なんにも悪いことしてないのに、

いつもひやひやしている。切符がちょっと

まがっていても扉はいっしゅんにして乗客を閉じこめてしまうのだ。

うしろから並んでいる人々はすこぶる迷惑にちがいない。

気のちいさいわたしは冷や汗をかきながら、

精算機にむかうか、駅員のもとに救いを求めにゆく、

なんどなくそんな経験をした。

 

 だから、わたしは切符をあの機械にいれるのに

いつも躊躇する。ハイジャック防止のどこでも

ドアみたいなものをくぐるのと同じような感覚だ。

両者ともたいがいは無事に出られるわけだが、

なにか無実の罪をようやく証明できたようなむなしい

開放感があるのである。これをトラウマといわずになんと言おう。

 

 もうひとつのハナシ。下着に貼るカイロ、

ホッカイロを貼ろうとしたところ、

もう洋服を着ていたので裏の白い紙をはがしたカイロを口にくわえた。

シャツをだして、さあ、貼ろうと思って口から取ろうとおもったら、

びっくりだ、くちびるにくっついてしまっているではないか。

カイロにとっても所定場所にぴたりとくっつくのが仕事だから、

まず、さいしょに付着したところがじぶんの

持ち場だとおもったにちがいない。

動物がさいしょに見たものを母親とおもうように。

あの粘着力はひどくがんこだ。ガムテープ以上かもしれない。

ちょっとひっぱったくらいでは取れないので、

力ずくではがしたら、びっくりだ。

くちびるの皮がいっしょにむけて、

血がとろとろでできたではないか。痛い。

 

 カイロも仮性トラウマのひとつになってしまった。

カイロは出血までしたのだからこちらは真性トラウマである。