いま、テレビの宣伝に三〇年くらい前の

チューリップの歌が流れてるの知ってる、

え、何の宣伝、ほら、アッカンピとかやってるやつだよ、

あ、知ってる、そーよ、

だからわたしがいつも言っているじゃない、

そういうのを中心に作っている人たちがわたしたちと

同じ年齢になってきているから、

むかしわたしたちが流行っていた歌が

また使われるんじゃない。同世代がいまどこの社会でも主流となって、

ちょっとノスタルジックになってむかしの歌をリバイバルしているのよ。

朝起きて、さいしょの妻との会話がこんな感じであったが、

今朝はいつもの朝とおなじくとてもひまはなかったし、

妻の回答の全容がほぼ見取り図みたいに了解されていたから、

じつは今日の会話、三

いま、テレビの宣伝に三〇年くらい前のチューリップの歌が

流れてるの知ってる、え、何の宣伝、ほら、

アッカンピとかやってるやつだよ、あ、知ってる、そーよ、

だから・・もういい、それ以上言うな、

おまえの言いたいことは一〇〇パーセントわかっているし、

俺の了解している領域以上のことをおまえは一パーセントも言わないから、

もうなんにも言わなくていい。こんな感じだった。

そうしたら妻が言った、なにそれ、いやな言い方。

かもね。ところで、おまえ今日中にＤＶＤ返しておけよ、

おまえが見るっていうから延滞して一日のばしたんじゃないか、

それなのに何にも見ていない、もったいないよ、

もしおまえが見ないって言っていたらもっと前に

俺が返してきてたんだぞ、はいはい、すみません、

今日は見ますから、わたしだって忙しいのよ、

映画見るにはそれなりの覚悟がいるのよ、

忙しいのはだれもいっしょさ、

その忙しさのなかでうまく時間を割いてじょうずに

時間を使うのが利口な生き方なんだろ、

人生はみじかくだれにも時間は同じだけ与えられているんだから、

わたしはほとんど妻の背中にしゃべっているのだが、

そうひとことひとこと言うたびに、

合いの手みたいに、はいはい、はいはい、と妻は言っている。

合いの手をいれるたびに除霊でもしているのだろうか。

いいか、今日中に見て、返しておけよ。

はいはい、スイッチをいれれば見られるようにしてあるからな、

はいはい、じゃ、口うるさいやつはこれから仕事に行くから、

これからは静かになるぞ、

よかったな、じぶんでそういってわたしは家を出てきた。

さっさとドアを閉めてきたから、最後にはいを言ったかどうかはわからない。