さいきんは見なくなってしまったが、
土曜日の早朝に将棋をやっている。
たしか、六時ごろからやっていたんじゃないか、
うてい起きられないからビデオで録画することにしていた。
が、わが家のビデオデッキがレニングラードから
届けられたようなすこぶる旧式のものだから、
録画されたり、されなかったり、
ほとんど信頼にかける機械であった。
金曜日の夜、ちゃんと寝るときに、
指定のチャンネルと時間をあわせてぐっすりと寝た。
眠れない羊の横に豚がいる
わたしは、となりに豚がいようと猪がいようとも、
三分くらいで熟睡する技術をもっているので、
その日も奈落の底まで熟睡した。
ひどいときは電話しながら寝るときもある。
答え合わせをしながら寝たときは、
ふっと起きたときの生徒の視線におどろいたものだ。
このごろは、電車の中で寝るわざまで取得したので、
車内は休養のいい空間となっている。
ところが、電車で寝たときは必ずといっていいほど
舌を噛んで起きるのだ。
そこがいたくてしょっちゅう口内炎になっている。
よく考えると、舌を噛むということは、
わたしは口を開けて寝ているのかもしれない。
そうおもうと恐ろしい。
金曜の熟睡は土曜日の朝まで持続し、
わたしはふだんとおなじような朝を迎えた。
デジタル時計は六時四十分を掲示している。
仕事場に行くにはまだ三十分の余裕がある。
明るい朝の光が居間のフローリングにまで射し込んでいる。
眠い。冷蔵からつめたい飲み物をだし、
わたしはあぐらをかきながら、
居間にあるビデオをのぞいた。
が、案の定、テレビラックにおさまっている
ベルーガ産ビデオデッキは閑かに静止していたのだ。
ほら、やっぱり動いていないじゃないか。
ああ、見損なっちゃった、早指し将棋選手権。
わたしは、なにげなくビデオを逆送の
早送りで画面を見た。と、どうしたことか、
止まっていたビデオが逆回りするのだ。
逆回りするということは、ビデオはいったんは動いたのか。
よくわからない。
もっとおどろいたのは、
画面に将棋が映っている。
早回しだから解説者がものすごいスピードで
駒をうごかしている。そういえば、
いま六時四十分だからまだ将棋の真っ最中のはずである。
で、なんで将棋が録画されているのだろう。
画面のフリップには6:52と出ているぞ。
え、なんでだ。なんで将棋が録画されて、
それが逆さ送りされて、時間が六時五十二分なんだろ。
わたしは、いま目の前に与えられた情報を、
こんがらがった釣り糸をほどくように
頭のなかで整理しそして整頓していった。
答えは、自動販売機のコーヒーが
抽出されるくらいの時間をかけて
、わたしの脳裏にそれでもすこぶる明解にだされた。
さいしょに見た時計は六時四十分でなく、
七時四十分の見間違えだったのだ。
おまけにビデオはソユーズみたいに正常に作動して、
将棋の録画を完了していたのである。
そして、わたしは気づいた。
遅刻だ。