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語彙力の低下

 生徒に本を読ませたら「様式」を「もしき」と読んでしまった。

なんで「もしき」なのか、おそらく「模様」の「模」の字を

読んでしまったんだろう。「模」のほうがむつかしいのに。

なにしろ、昨今の教育レベルの低下はあたまをかかえるばかりで、

「カイマッテ」とか読んでいたので、ん、待てよ、と見てみると

「改まって」だったり、「ヨウイラレテ」はほんとは

「用いられて」だったり。

むかし、どこかに書いたが、ある部活動のキャプテンがこう言っていた。

「井上靖の小説に『ウサギニツノ』ってよくでてくるんですよ」

 まあ、「兎に角」はひらがなで書いてやらないとな。

井上靖が悪いね。

 だいたい、わたしもそんなに語彙が豊富とは

おもっていないが、若い連中の語彙の貧弱さは絶望的といえる。

 はっ。意味ないし。

うちの娘の常套句だ。

なんだか枯渇しているね。なんだよ、

この「・・だし」と「し」で終わる言葉遣いは。

あ、気づいたぞ。いま、若者のあいだによく使われている、

文末の「し」、これはまちがいなく文末決定性の

日本語の文末の不安定さを「し」で落ち着かせようと

しているのだ。もし、それがただしいのなら、

これはまさしく現代の係り結びにほかならない。

 これで一件落着だ。とむすめに言ったらば、

「は、そんなこと考えてないし」

と答えそうだな。

 ある二十代前半の女性に電話したとき、

「おれきょうはもうバタンキューだよ」

と言ったら、しばらく沈黙があって、

「バタンキューってなに」と返ってきた。

わたしはちょっと唖然としたので、

そのときは、食い物だよ、なんて冗談もでてこなかった。

ずいぶん前のこと、バタンキューの女性と同年の女友達と、

彼女たちの会社の先輩OL、

これはたしか二十歳後半だったとおもうけど、

三人プラスわたしという飲み会があったのだが、

そのとき、先輩の女性が先輩風をふかせるように、

「いいわね。この子たち、青春を謳歌しているから」って、

まるでじぶんはもう年齢超過みたいなことを

いいながらひとりでうなずくようにしゃべったところ、

このバタンキューもその友達もぽかんとしているのだ。

いわゆるフリーズしているのだ。

だから、わたしは揶揄はんぶんで訊いてみたのだ。

「おまえたち『オウカ』ってわかんないじゃないの?」

と、このふたりはおたがい同士を見つめ合っている。

案の定とおもっていたら、先輩OLがこう付け加えた。

「桜に花って書くのよ」

 こんどは、わたしがフリーズした。

 

 これは、またべつのはなし。

やっぱり若い系の女性と車で移動することになったとき、

(このシチュエーションはけっしてやましいことではありませんよ)

夜の九時頃、鶴見川沿いを走っていたのだが、

なんにもない夜空に巨大なマンション棟が

にわかにあらわれたのだ。夜空の半分くらいの面積で

そびえるマンションは、

野球場の照明のようなあかるさで無数の蛍光灯が各階に点灯している。

川に住む夜光虫がすべて集結しそうな明るさである。

「おおきいわねぇ」

となりでぼそっとそうつぶやいた。わたしは、

「ああ、圧巻だね」

とあいさつした。ん、なんかわかってないみたいだ。

だいたいひとは言葉が通じないときは、

ブッダフェイスになるものだ。

いまとなりがちょうどブッダフェイスになっている。

で、なんだが、もう答えがわかっているのに

わたしは彼女に尋ねてみたのだ。

「ねぇ、圧巻ってわかる。

圧巻のあとにつづくのなんだか知ってる?」

そうしたらブッダはお決まりのように答えた。

「ベー」