ずいぶん昔のはなしである。
発泡酒の売り上げが去年にくらべて三割減となった。
その理由は発泡酒の増税のための値上げによるものだという。
そもそもほんもののビールはその種類から課税率がすこぶる高く、
あの泡はほとんど税金だったので、
かく企業は課税率の低い発泡酒に目をつけ、
発泡酒なのだがビールにひどく近い味という
商品を何年にもおよんで研究し、
さいきんは、じつにすっきりとしたビールに
まさるともおとらない作品を提供するようになったのである。
つまり、これこそ、国の法律に則っとりながら、
その法律の範囲内で多額の研究費をついやしながら
見事にあたらしい商品を完成させたという事実であり、
企業努力のたまものであったわけだ。
ここで急所の部分というと、
出発点が、国の法律であったというところなのである。
おまけに、もし、ビールとかわらない味と香りが
発泡酒にあるなら、それは日本の技術が高度である
ということへの証明だし、日本の誇りであるといってもいいだろう。
よくぞ、ここまで到達したものだ、
あっぱれ、あっぱれ、国はこのような惜しみない
努力をする企業にエールをおくってもよいくらいなのに、
政府のしたことは、賞賛でも、援助でも、応援でもなく、
課税であったのは、人道的にも最低で、
悲しいくらいの傲慢な政府の対応だとしか言いようがない。
ふーん、儲かっているんだ、じゃ税金かけようっと。
合法的に努力をしたら、その法律をさっさと変えてしまうなんて、
卑怯・短絡的・野蛮・貧困・早計な発想じゃないか。
日本人がスキーで好成績を取るたんびに
日本人にひどく不利なルールにしてゆく世界のスキー協会に
苦々しいおもいを経験しているのをわれわれは忘れたのだろうか。
平成十五年度より、年商一千万円以上の会社にも
消費税がかかるらしい。この法案が国会を通過したと聞く。
が、あんまりわれわれの耳に伝わってこないのは、
はっきり政府が告知していないからだ。
いままでは、三千万円以下は非課税だったのだ。
だから、そのへんの商店など、さすがに年商三千万円には
届かないから、じぶんのところの商品には消費税を
かけずに販売していたのである。
が、一千万円となるとひとつきにやく八十万円強、
いちにち二万六千円の売り上げのある店には消費税がかかるしくみとなる。
たとえばラーメン屋など、
一杯六百円で売っていた店がいちにちに
四十六人の来客があれば年商一千万円以上になってしまう。
ということは、ほとんどの商店はこれからは
消費税を払う義務を負うことになる。
が、いままで消費税をとって商売していないから、
まさか一千万円から課税されるとはおもっていないし、
もう十五年度はとっくにはじまっているし、
いまさら消費税分をお客さんに負担してもらう、
つまり、いっきに値上げはできないし、
ということはその弱小企業がじぶんのふところを
いためて今年度分の消費税を支払う、
ようするに自腹を切ることとなるのである。
一年くらい猶予期間をおき、消費者、国民全体に
このへんの事情を理解させておかないと、
なんにもしらない客たちは、あの店はきゅうに
値上げしたぞ、とおもいこみ、経営不振を招きはしないだろうか。
一杯六百円のラーメン屋が四十六人のお客で
一ヶ月店を回したとする。で、
一月やく八十五万円の売り上げ。
ここから家賃の十二万、電気の三万、ガスの六万円、
業者払いが、製麺屋に九万円、海苔屋に二万五千円、
海産物問屋に七万円、肉屋に十五万円、
バイト料に十五万円、ざっと安くみてもこのくらいかかるので、
ラーメン屋のおやじのひとつきの儲けは十六万円となる。
この十六万円で、国民健康保険や、家の家賃や日常の生活費、
教育費、医療費、食費を捻出しなくてはならない。
だから、四十六人のラーメン屋はまもなくつぶれるか、
あるいは、業者払いを落として、つまり、
味をおとしてゆくしか方法はなくなるのだ。
鶏ガラだけでそれもけちけちだしをとれば、
ひとつき四万円くらいですむんじゃないかな。
ま、こうやってまずいラーメン屋が誕生してゆくのだけれど、
そのまずいラーメン屋が消費税やく五十万円を
どうやって払うのだろうか。こうやって、やっとこさ生きてきた
まずいラーメン屋は、もっと業者払いやバイト代を削り、
サービスの悪い、愛想のない、ボトムにまずいラーメン店に崩れ落ちてゆくのだ。
こういう図式を、いまの政府が作り上げてきたのである。
そうおもうと、国に対し損害賠償を払ってもらいたいような
気持ちになってしまうが、そうおもっていた矢先、
こんどは、りそな銀行に公的資金を導入するという。
国民ひとりあたりやく二万円の負担らしい。
五人家族なら、やく十万円をりそなに寄付することになる。
苦しい企業に消費税、
苦しい家庭にりそな銀行、
企業努力の必要なのは政府である。